Microsoft Defender for Cloud Apps完全ガイド:セキュリティエンジニアが知るべき導入・運用のすべて

目次

はじめに

記事をご覧いただき、ありがとうございます。
AIセキュリティ合同会社の越川と申します。

私は10年以上にわたり、ウェブアプリケーション開発からサーバー構築まで幅広く経験し、現在はシステムの安定稼働、データ保護、サイバー脅威対策といった分野に注力しています。そのような経験から、現代のビジネス環境におけるデータの重要性と、それを保護する必要性を日々痛感しております。

そして、このデータ保護と脅威対策を統合的に実現する上で、今や欠かせない存在となっているのが、本稿のテーマである「Microsoft Defender for Cloud Apps」です。

クラウドファーストの時代において、企業のIT環境は劇的に変化しています。
SaaS(Software as a Service)アプリケーションの利用が急速に拡大する一方で、セキュリティリスクも同時に増大しています。

私自身も、多くの企業でクラウド移行プロジェクトに携わる中で、従来のオンプレミス環境では想定していなかった新たな脅威に直面することが増えました。

特に深刻なのは、シャドーIT(企業が把握していない従業員による無許可のクラウドアプリ利用)問題です。これにより、重要なデータが管理者の監視外でクラウド上に保存・共有されるリスクが高まっています。

実際に、私が関わった案件でも、研究開発部門が無断で利用していたクラウドストレージサービスに機密データが保存されていたケースがありました。

本記事では、セキュリティエンジニアの実務経験を踏まえ、Microsoft Defender for Cloud Appsの包括的な導入・運用ガイドを提供します。

Microsoft Defender for Cloud Appsとは何か

製品概要とCASBの役割

Microsoft Defender for Cloud Appsは、CASB(Cloud Access Security Broker)として機能するクラウドセキュリティソリューションです。

もともとは「Microsoft Cloud App Security(MCAS)」として提供されていましたが、2021年にMicrosoft Defenderブランドの統合により現在の名称に変更されました。

CASBとは?

ユーザーとクラウドアプリケーションの間に位置し、クラウドサービスの利用状況を監視することで、不正アクセスやデータ漏洩を防ぎ、コンプライアンスを維持するのに役立つセキュリティ技術です。

具体的には、例えばSalesforceへの不正アクセスを検知したり、BoxやDropboxへの機密ファイルアップロードを防ぐ役割を担います。

主な技術的特徴

Defender for Cloud Appsは、すべてのクラウド サービスを検出し、それぞれにリスク ランクを割り当て、サインインできるすべてのユーザーとサードパーティ製アプリも識別します。

本製品の技術的な特徴は以下の通りです。

  • API コネクタ:Google Workspace、Salesforce、Box等の主要SaaSとAPI連携
  • ログ分析:プロキシログやファイアウォールログからクラウドアプリ利用状況を分析
  • リバースプロキシ:リアルタイムでのセッション制御とコンテンツ検査
  • 機械学習:異常行動検知とリスクスコア算出

なぜMicrosoft Defender for Cloud Appsが活用されるのか

1. 包括的なクラウドアプリ可視化

検出されたアプリを 90 を超えるリスク インジケーターを評価し、検出されたアプリを並べ替え、組織のセキュリティとコンプライアンス体制を評価できるようにします。

従来の境界型セキュリティでは把握できなかった、以下のような詳細情報を可視化します。

  • 利用中のクラウドアプリケーション一覧
  • 各アプリのリスクスコア(セキュリティ、コンプライアンス、法的要件など)
  • ユーザーの利用パターンと異常行動
  • データの流れと共有状況

2. Microsoft エコシステムとの高度な統合

Microsoft 365やAzure ADとの緊密な連携により、以下の統合メリットを実現します。

  • シングルサインオン(SSO):Azure ADの認証情報を活用した一元管理
  • 条件付きアクセス:デバイスの信頼性やユーザーの場所に基づいたアクセス制御
  • Microsoft Information Protection:機密データの自動分類と保護

3. ゼロトラストアーキテクチャの実現

現代のセキュリティ要件である「信頼しない、常に検証する」のゼロトラストモデルを実装できます。
具体的には、信頼されていないデバイスからのアクセスに対して、閲覧のみ許可してダウンロードを禁止するなど、きめ細かな制御が可能です。

Microsoft Defender for Cloud Appsの具体的なステップ

【イメージ図:概要フロー図】

導入フェーズ1:環境準備と初期設定

  1. ライセンス要件の確認:Microsoft 365 E5またはEnterprise Mobility + Security E5が必要 既存のMicrosoft 365環境との整合性確認
     
  2. Azure AD環境の準備:条件付きアクセスポリシーの設定 ユーザーグループの整備 管理者権限の設定
     
  3. ネットワーク設定:ファイアウォールの設定変更(送信先IP範囲の許可) プロキシサーバーの設定(必要に応じて)

導入フェーズ2:アプリケーション接続とポリシー設定

  1. APIコネクタの設定:対象SaaSアプリケーション(Google Workspace、Salesforce等)との接続 読み取り権限の設定と動作確認
     
  2. ログコレクタの設定:プロキシログやファイアウォールログの収集設定 Cloud Discovery機能の有効化
     
  3. セキュリティポリシーの実装:DLP(Data Loss Prevention)ポリシーの設定、アクセス制御ポリシーの策定、異常検知ルールの設定

導入フェーズ3:運用開始と継続的改善

  1. 監視体制の構築:アラート通知の設定 ダッシュボードの構築 レポート自動生成の設定
     
  2. インシデント対応プロセス:エスカレーションルールの策定 対応手順書の作成 定期的な棚卸しと見直し

Microsoft Defender for Cloud Appsのメリット

技術的メリット

1. 高度な脅威検知能力
機械学習を活用した行動分析により、従来のルールベースでは検知困難な異常行動を特定します。
例えば、通常は営業時間内のみOffice 365にアクセスするユーザーが、深夜に大量のファイルをダウンロードした場合、自動的にアラートを発生させます。

2. リアルタイム制御
プロキシ機能により、リアルタイムでのセッション制御が可能です。
信頼されていないデバイスからのアクセスに対して、即座にダウンロード禁止や印刷制限を適用できます。

3. 包括的なデータ保護
Microsoft Information Protectionとの連携により、機密データの自動分類と保護が実現されます。
個人情報を含むファイルが外部共有されそうになった際、自動的にブロックし、管理者に通知します。

競合製品との比較

機能 Microsoft Defender for Cloud Apps Netskope Zscaler
Microsoft 365統合 ◎ ネイティブ統合 ○ API連携 ○ API連携
オンプレミス対応 ○ ハイブリッド対応 ◎ 強力なオンプレミス機能 ◎ 包括的な対応
価格体系 ◎ Microsoft 365に含まれる △ 別途ライセンス必要 △ 別途ライセンス必要
導入の複雑さ ◎ 比較的簡単 ○ 中程度 △ 複雑
アプリカバレッジ ○ 主要SaaSサポート ◎ 非常に幅広い ◎ 非常に幅広い

活用方法

ここでは、Microsoft Defender for Cloud Appsの具体的な活用方法を、実際の企業環境で想定される代表的なシナリオを通じて解説します。これらは私の実務経験をもとに構成した想定ケースですが、多くの企業で実際に発生している課題と解決アプローチを反映しています。

活用方法1:グローバル製造業におけるシャドーIT対策

ある大手製造業では、従業員が業務効率化のために個人契約のクラウドストレージサービスを利用していることが判明しました。Microsoft Defender for Cloud Apps は、社内に危険なクラウド利用がないかを監視・制御するサービスです。

課題

  • 研究開発部門が無許可でGoogle DriveやDropboxを利用
  • 機密設計図面が管理外のクラウドストレージに保存
  • コンプライアンス違反のリスク

解決策

  • Cloud Discovery機能によるシャドーIT可視化
  • 承認されたクラウドストレージサービスへの誘導
  • 機密ファイルの自動検知と保護

成果

  • 未承認クラウドアプリの利用が80%減少
  • 機密情報の漏洩リスクを大幅に低減
  • コンプライアンス監査での評価向上

活用方法2:金融機関における異常行動検知

課題

  • 内部不正による情報漏洩リスク
  • 外部からの標的型攻撃への対応
  • 規制要件への準拠

解決策

  • 機械学習による異常行動検知の実装
  • リアルタイムアラートと自動対応
  • 詳細なログ分析とフォレンジック機能

成果

  • 不正アクセスの検知時間を従来の数日から数分に短縮
  • 自動的なアカウント停止により被害を最小化
  • 監査対応の工数を70%削減

参考文献:https://www.microsoft.com/ja-jp/security/business/siem-and-xdr/microsoft-defender-cloud-apps

まとめ

Microsoft Defender for Cloud Appsは、現代のクラウドファースト環境において不可欠なセキュリティソリューションです。特に、Microsoft 365を利用している組織にとって、追加のインフラ投資なく高度なクラウドセキュリティを実現できる点が大きなメリットとなります。

導入に際しては、段階的なアプローチを取り、まずは可視化から始めて、徐々に制御機能を拡張していくことが成功の鍵となります。また、継続的な運用とポリシーの見直しにより、組織のセキュリティ態勢を常に最新の脅威に対応できる状態に保つことが重要です。

セキュリティエンジニアとして、クラウドセキュリティの新たな標準を構築するために、Microsoft Defender for Cloud Appsの導入を検討されることをお勧めします。

参考文献

  1. Microsoft Learn – Microsoft Defender for Cloud Apps概要:
    https://learn.microsoft.com/ja-jp/defender-cloud-apps/what-is-defender-for-cloud-apps
     
  2. Microsoft Security – Microsoft Defender for Cloud Apps:
    https://www.microsoft.com/ja-jp/security/business/siem-and-xdr/microsoft-defender-cloud-apps
      
  3. アールワークス – Microsoft Defender for Cloud AppsとシャドーIT対策: 
    https://www.rworks.jp/cloud/azure/azure-column/azure-entry/28248/
     
  4. 日本ビジネスシステムズ – Microsoft Defender for Cloud Apps:
    https://www.jbs.co.jp/solution/managedsecurity_cloudappsecurity
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