
はじめに
現代のビジネス環境において、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速は、企業の生産性や競争力を飛躍的に向上させる一方で、新たなサイバーセキュリティのリスクをもたらしています。
クラウドサービスの普及、テレワークの定着、そしてサプライチェーンの複雑化により、攻撃者が狙うべき領域(アタックサーフェス)はかつてなく拡大し、脅威は日々巧妙化・多様化の一途をたどっています。
このような状況下では、エンドポイントやネットワーク、クラウドといった個別の領域を守る従来の「サイロ型」のセキュリティ対策だけでは、組織全体を保護することは困難です。
複数の領域にまたがる高度な攻撃の全体像を把握し、迅速かつ的確に対応するためには、各セキュリティレイヤーの情報を統合し、一元的に分析・対処する新たなアプローチが不可欠となります。
本稿では、こうした現代の課題に応えるソリューションとして注目されるトレンドマイクロのXDR(Extended Detection and Response)プラットフォーム「Trend Micro Vision One」について、その概要から具体的な活用法、導入効果に至るまでを詳しく解説します。
Trend Micro Vision Oneの概要と開発背景
巧妙化するサイバー脅威と従来の対策の限界
現代の企業が直面しているサイバー脅威は、日々巧妙さを増し、多様化しています。
従来のセキュリティ対策では、個別の脅威には対応できても、組織全体を守るには不十分であることが顕著になってきました。
特に、オンプレミスとクラウドの混在環境、テレワークによるエンドポイントの多様化、サプライチェーン全体を狙う攻撃など、複数の攻撃面が連動する複雑なインシデントが増加しています。
XDRプラットフォームとしてのTMVO
こうした背景の中で登場したのが、Trend Micro Vision One(以下、TMVO)です。
このプラットフォームは、Trend Microが長年にわたり蓄積してきた脅威インテリジェンスと、複数のセキュリティ製品群のデータを統合する技術を基盤としています。
TMVOは単なる脅威検出ツールではなく、企業のセキュリティ運用全体を効率化・高度化するXDR(Extended Detection and Response)プラットフォームとして設計されています。
XDRは、エンドポイント(EDR)に加え、メール、ネットワーク、クラウドなどの多様なデータソースを収集・分析することで、攻撃の全体像を把握しやすくし、対応を迅速かつ正確に行うための仕組みです。
Trend Microは、このXDRの考え方を早期から採用し、Vision Oneという形で製品化することで、先進的な企業におけるサイバーセキュリティの中核的存在となっています。
主な機能とアーキテクチャの全体像
複数のセキュリティレイヤーを横断する相関分析
TMVOの核となるのは、複数のセキュリティレイヤーから得られるテレメトリデータを集約し、これをAIおよび機械学習エンジンによってリアルタイムに分析する能力です。
たとえば、エンドポイントで検出された異常な挙動が、直前に受信されたフィッシングメールと関係している場合、それらのイベントを相関付けて一連のインシデントとして認識できます。
このような相関分析機能は、従来のEDRやSIEM製品では実現が難しかった部分です。
TMVOでは、各セキュリティソースが単独で検知したアラートを統合することで、攻撃の全体像を浮き彫りにし、組織が早期に対応すべきインシデントを正確に特定できます。
独自指標によるセキュリティ状態の可視化
さらに、TMVOは「サイバーリスクインデックス(CRI)」という独自の指標を用いて、企業のセキュリティ状態を可視化します。
CRIは、外部の脅威状況と内部の防御力を数値化し、そのギャップを明らかにすることで、具体的にどの分野にリソースを集中すべきかの判断材料を提供します。
包括的なセキュリティ強化機能
他にも、次世代型の脅威インテリジェンス機能、攻撃サーフェスリスク管理、ゼロトラストセグメンテーション支援など、企業のセキュリティ体制をトータルで強化する仕組みが備わっています。
導入プロセスと初期設定の流れ
スムーズな導入とデータ収集の開始
TMVOの導入は非常にスムーズに行えるよう設計されています。
まず最初に、Trend Micro Oneのポータルにアクセスし、管理者アカウントを作成します。
次に、Apex OneやCloud App Security、Deep Discovery Inspectorといった既存のTrend Micro製品、あるいは新規に導入するセキュリティモジュールをポータルに登録し、データの収集を開始します。
続いて、エージェントの配布やクラウドAPIの連携設定を行います。
これにより、エンドポイント、メール、クラウドサービス、ネットワークの各データソースからのテレメトリが一元的に収集されるようになります。
設定後、最短で数分以内にダッシュボード上にアクティビティやアラートが表示され始め、導入効果を即座に確認できます。
導入後のカスタマイズと高度な運用
TMVOでは初期段階からある程度の自動相関ルールが組み込まれており、最小限の設定でも一定の脅威可視化が可能です。
しかし、より高度な運用を行うには、環境に応じたポリシー設定や、通知ルール、アラートの優先度定義などをカスタマイズする必要があります。
さらに、Trend Microの提供するMDR(Managed Detection and Response)サービスと連携すれば、より高度な分析支援や、24時間体制の脅威対応支援も受けることが可能となります。
日常運用におけるTMVOの活用法
意思決定を支援するダッシュボード
TMVOは、単なるモニタリングツールに留まらず、日々のセキュリティ運用を支援するための多彩な機能を提供しています。
ダッシュボードはカスタマイズ可能で、セキュリティチームの関心に応じて表示項目を最適化できます。
インシデント発生数、アクティブな脅威、対応ステータス、ユーザー行動分析など、多面的な視点で情報を整理し、意思決定を支援します。
インシデント対応の迅速化と自動化
また、アラートが発生した際には、その背景や関連イベント、影響範囲、推奨対応策までが自動で提示されます。
これにより、担当者は複数のツールを横断的に確認する手間を省くことができ、対応のスピードと精度を大幅に向上させることができます。
プレイブック機能もTMVOの重要な要素です。
これは、予め設定した条件に応じて自動的に特定のアクションを実行する仕組みであり、例えばマルウェア検出時に自動で該当端末をネットワークから隔離するといった運用が可能です。
これにより、人的リソースが限られている環境でも迅速かつ一貫性のある対応が実現されます。
経営層へのレポーティング
TMVOはまた、社内教育やレポーティングにも活用できます。
ダッシュボード上で視覚的に脅威の傾向やリスクスコアを把握できるため、経営層への説明や投資判断にも役立ちます。
他製品との違いとTMVOが選ばれる理由
データを統合するXDRアプローチ
多くの企業では、すでにEDRやSIEMを導入しているかもしれません。
しかし、TMVOが他のセキュリティ製品と一線を画すのは、そのデータ統合と可視化のアプローチにあります。
単一のデバイスやソースに依存しないTMVOのXDR機能は、サイロ化された情報をつなぎ、包括的な脅威の把握を可能にします。
高精度な検出エンジンと手厚いサポート
さらに、トレンドマイクロ独自のグローバル脅威データベースを背景とした高精度な検出エンジンは、ゼロデイ攻撃や未知のマルウェアに対しても優れた防御力を発揮します。
加えて、日本国内に拠点を持つトレンドマイクロのサポート体制は、言語の壁や時差を気にせず迅速に問い合わせ・相談ができる点でも高く評価されています。
柔軟なシステム連携
また、TMVOはベンダーロックインを避ける設計も意識されており、APIを通じて外部システムとの連携も柔軟に行えます。
これにより、既存のSIEMやSOAR環境との共存、さらにはクラウドセキュリティポスチャ管理(CSPM)やID管理ソリューションとの統合もスムーズに実現できます。
導入事例と今後の展望
国内外における導入効果
国内外の大手企業がすでにTMVOを導入しており、様々な成果を上げています。
たとえば、ある製造業では、グローバル拠点に分散したIT資産の脅威監視を一元化することで、セキュリティチームの運用負荷を40%以上削減しました。
また、教育機関では、限られたIT人材でも高度なセキュリティ対応が可能となり、ランサムウェア攻撃からの迅速な復旧を実現した事例もあります。
将来の進化と方向性
今後、TMVOはさらに多くのクラウドネイティブサービスとの連携を強化し、ゼロトラストアーキテクチャに完全対応する形へと進化することが期待されています。
AIによる脅威予測、行動分析を基盤とした自動化、さらには組織のサイバーセキュリティ文化の醸成に寄与する教育機能の拡充など、企業のデジタルリスクに真正面から取り組むための進化が続いています。
おわりに
セキュリティ運用の変革を実現するプラットフォーム
本稿では、Trend Micro Vision Oneが、現代の複雑なサイバー脅威に対して、いかに強力なソリューションとなり得るかを解説しました。
TMVOは、単にアラートを検知するツールではありません。
エンドポイントからクラウドまで、組織のIT環境全体を可視化し、AIと脅威インテリジェンスを活用してインシデントの全体像を明らかにすることで、セキュリティ運用の在り方そのものを変革するプラットフォームです。
次世代のセキュリティ対策に向けて
運用負荷の軽減、迅速で的確なインシデント対応、そしてプロアクティブなリスク管理。
これらは、デジタル時代を安全に航海するために、あらゆる企業にとって不可欠な要素です。
Trend Micro Vision Oneは、これらの課題に対する具体的な答えを提供し、企業のセキュリティ体制を新たなステージへと引き上げる可能性を秘めています。
この機会に、自社のセキュリティ対策を見つめ直し、次世代のサイバーセキュリティ基盤としてTrend Micro Vision Oneの導入を検討してみてはいかがでしょうか。