
はじめに
中小企業に求められる次世代のセキュリティ
FortiGate 90Eは、Fortinet社が提供する次世代ファイアウォール(NGFW)シリーズの中でも、中小規模の企業や分散型拠点環境に特化して設計されたアプライアンス型セキュリティ製品です。
セキュリティゲートウェイとして多機能な役割を果たすこの製品は、ファイアウォールの基本的な役割だけでなく、侵入検知および防御、VPN通信、アンチウイルス、アプリケーション制御、Webフィルタリング、ボットネット対策、そしてクラウド連携など、多くのセキュリティ機能を統合的に提供します。
従来のファイアウォールでは、ポートやIPアドレスなどのトラフィック制御が中心でしたが、近年ではそれだけでは十分な対策とは言えません。 マルウェアの高度化やゼロデイ攻撃、IoT機器の台頭に伴う攻撃対象の拡大、さらにはリモートワークの一般化による企業ネットワークの分散化など、ITインフラを取り巻く状況は複雑さを増しています。
こうした背景から、より高度で柔軟なセキュリティソリューションが必要とされており、FortiGate 90Eはまさにそのニーズに応える存在となっています。
本記事が対象とする読者と提供する価値
特に、セキュリティエンジニアや情報システム部門の方にとっては、コストパフォーマンスや運用負荷、管理のしやすさといった実務的な観点も重要です。
FortiGate 90Eはその点でも優れた設計がなされており、初めてUTM(統合脅威管理)製品を導入する企業や、旧型ファイアウォールのリプレースを検討している組織にとって、最適な選択肢の一つといえるでしょう。
本記事では、FortiGate 90Eの基本的な機能や仕様から、導入メリット、他製品との比較、具体的な活用シーン、そしてライセンスや管理面の注意点まで、幅広い視点から詳しく解説していきます。
初めてこの製品について調べる方にも、すでに導入を検討している方にも、参考になる内容を目指しています。
FortiGate 90Eの主な特徴とスペックを深掘りする
独自開発チップ「FortiASIC」による高速処理
FortiGate 90Eの大きな特徴の一つは、SoC(System on Chip)と呼ばれるFortinet独自のチップセット「FortiASIC」を採用している点にあります。
この専用ハードウェアによって、トラフィックの処理性能とセキュリティ機能の両立が図られており、ソフトウェアベースの製品とは一線を画しています。
多くの次世代ファイアウォールは複数のセキュリティ機能を並列動作させるため、処理能力に負担がかかりますが、FortiGate 90Eでは高スループットと低遅延を実現しているのが特長です。
中小規模オフィスに最適なパフォーマンス
実際のパフォーマンス面では、ファイアウォールのスループットが最大4Gbps、VPN処理で最大245Mbps、アプリケーションのスループットでは最大510Mbpsを誇ります。
この数値は、従業員数が数十名規模のオフィスに十分対応できる水準であり、日常的な業務トラフィックの中でボトルネックを感じることなく安定した運用が可能です。
柔軟なネットワーク構成を可能にするポート
また、ポート構成も中小企業にとって使い勝手の良い構成が取られています。
インタフェースとしては、10個のギガビットイーサネットポートを搭載しており、WAN、LAN、DMZなどの役割を柔軟に構成することができます。
リモート拠点へのVPN接続や、複数セグメントに分かれた社内ネットワークの管理にも対応可能で、システム管理者の設計意図に応じたネットワーク構成を実現できます。
直感的な運用を支える「FortiOS」
さらに、FortiOSという独自のOSを搭載している点もFortiGateシリーズ共通の特長であり、90Eモデルも例外ではありません。
FortiOSは多機能ながらシンプルなGUI設計で、セキュリティポリシーの作成やレポート管理、トラフィックの可視化がしやすく、運用面での負荷軽減に大きく貢献します。
FortiGate 90E導入による企業メリットとは
セキュリティ機能の統合による運用効率の向上
FortiGate 90Eを企業ネットワークに導入することで得られるメリットは多岐にわたります。
まず挙げられるのが、セキュリティ機能の統合による運用効率の向上です。
従来であれば、ファイアウォール、IPS、アンチウイルス、Webフィルタリングなど複数のセキュリティアプライアンスをそれぞれ運用する必要がありましたが、FortiGate 90Eではこれらの機能が一台に集約されており、物理的なスペースや運用管理コストを大幅に削減できます。
優れたコストパフォーマンス
次に、コストパフォーマンスの高さも注目すべき点です。
FortiGate 90Eは、同等の機能を備える他社製品と比較して、ライセンス体系がシンプルで、運用に必要なライセンスのパッケージ化がされているため、予算計画が立てやすく、予期せぬコスト発生のリスクを減らすことができます。
特に、UTMバンドルライセンスを導入することで、複数年契約による割引も受けられるため、長期的な視点でのコスト削減効果が期待できます。
ハイブリッド環境への高い対応力
また、リモートワークやクラウド利用が増える現代において、FortiGate 90Eはハイブリッド環境への対応力も備えています。
SSL VPNやIPSec VPNによるセキュアなリモートアクセスの確保はもちろん、Microsoft AzureやAmazon Web Servicesとの連携もサポートされており、オンプレミスとクラウドのセキュリティを一元管理できる構成が可能となっています。
FortiManager/FortiAnalyzer連携による管理負荷の軽減
加えて、運用面での利便性も見逃せません。 FortiManagerを活用した一元管理や、FortiAnalyzerによるログ収集・分析を行うことで、障害の早期発見と原因分析、レポート作成の効率化が実現できます。
これにより、セキュリティエンジニアや情報システム部門が抱える業務負荷の軽減が可能となり、より戦略的なIT施策にリソースを振り向けることができるようになります。
FortiGate 90Eと他製品との比較で見えてくる選定ポイント
競合製品との比較
FortiGate 90Eを導入候補として検討する際には、同じく中小規模ネットワーク向けのセキュリティアプライアンスとの比較を通じて、その優位性を明確に把握することが重要です。
他社の競合製品には、例えばSonicWallのTZシリーズ、WatchGuardのFireboxシリーズ、Palo Alto NetworksのPA-220などが挙げられます。 それぞれが独自の強みを持っていますが、セキュリティ性能、拡張性、管理のしやすさ、コスト面でFortiGate 90Eが優れている点は多くあります。
強み①:リアルタイムの脅威インテリジェンス「FortiGuard」
セキュリティ性能の観点では、Fortinetの最大の特長であるFortiGuardセキュリティサービスの存在が大きく影響します。
これは、グローバルに展開されている脅威インテリジェンスのネットワークによって最新の脅威情報が継続的に配信され、リアルタイムでセキュリティ機能が更新されるという仕組みです。
競合製品でもアップデート機能はありますが、Fortinetのように包括的かつ高速に更新が行われるケースは多くありません。
この点は、ゼロデイ攻撃や標的型攻撃への対応力を高めたい企業にとって、大きな信頼材料となります。
強み②:ハードウェアによる圧倒的な処理性能
また、ハードウェアの面では、前述したFortiASICチップの搭載により、処理効率が極めて高く、複数のセキュリティ機能を同時に有効化した状態でも高いスループットを維持することができます。
ソフトウェア処理が中心の他社製品と比較すると、特に大量トラフィックが発生する時間帯でのパフォーマンス差は歴然です。
ネットワークの安定稼働を最優先する管理者にとって、処理の安定性は不可欠な要素であり、その点でFortiGate 90Eは安心して運用できる製品といえるでしょう。
強み③:優れた管理性と充実したサポート体制
さらに、管理性の点でもFortiGate 90Eは優れた設計となっています。
WebベースのGUIは直感的に操作可能でありながら、高度な設定も柔軟に行えるため、初心者から上級管理者まで幅広い層に対応しています。
また、CLI(コマンドラインインターフェース)も充実しており、スクリプトによる一括設定や自動化にも対応しています。
WatchGuardやSonicWallと比較しても、学習コストと運用効率のバランスがとれており、日本語のサポート情報やパートナー企業の体制も整っているため、導入後のサポート面でも安心です。
強み④:明確で計画しやすいコスト体系
コスト面では、初期費用とライセンス更新費用の両面で優位性があります。
FortiGate製品は、複数年のバンドル契約を選択することで、長期的なライセンス管理が容易になるとともに、年間コストを抑えることができます。
一方、競合製品では機能ごとにライセンスが分かれていたり、アップグレードが必要になる場合もあり、結果的にコストが膨らむことがあります。
特にコストを明確に管理したい中小企業にとって、FortiGate 90Eの価格体系は大きな魅力といえるでしょう。
導入事例から学ぶFortiGate 90Eの活用法
事例①:製造業における拠点間VPNと集中管理
FortiGate 90Eは、その機能性と柔軟性の高さから、多くの企業や団体において実際に導入されています。
たとえば、ある中堅の製造業の企業では、複数拠点間をVPNで接続し、セントラルの本社に集中管理体制を敷くためにFortiGate 90Eを各拠点に設置しました。
それにより、インターネット経由でのリモート監視や、拠点間のファイル共有、業務システムへの安全なアクセスが可能になりました。
事例②:教育機関におけるセキュアなネットワーク分離
また、教育機関においてもFortiGate 90Eは活躍しています。
大学の研究室単位でネットワークが独立しているケースでは、外部からの不正アクセスや内部からの情報漏洩を防ぐために、高度なフィルタリングやログ監視が必要になります。
FortiGate 90Eを導入することで、アプリケーション単位でのアクセス制御や、研究用ネットワークと学生用ネットワークの分離を容易に実現でき、限られたITリソースの中で高いセキュリティレベルを維持することに成功しています。
事例③:小売業における業務システムの安定稼働
さらに、小売業やサービス業でも活用が広がっています。
例えばPOS端末や在庫管理システムをインターネット経由で一元管理している企業では、通信の安定性とセキュリティの両立が不可欠です。
FortiGate 90Eの導入により、端末ごとの通信を細かく制御し、サイバー攻撃による業務停止リスクを最小限に抑えることができたという報告もあります。
事例から見える共通点:ビジネスを支える戦略的IT基盤
これらの事例に共通しているのは、ネットワークセキュリティを単なる防御策として捉えるのではなく、ビジネスの安定運用や競争力強化のための戦略的資産として活用している点です。
FortiGate 90Eは、その高い柔軟性と性能によって、様々な業種業態にフィットする形で導入が可能となっており、単なるツールを超えて、ITインフラ全体の中核を担う存在として活用されているのです。
導入時の注意点と長期運用を見据えた検討
ライセンス範囲の明確化
FortiGate 90Eを導入する際には、いくつかのポイントを事前に確認しておくことが重要です。 まず第一に、必要なライセンスの範囲を明確にすることが挙げられます。
FortiGate製品は、基本機能に加えてオプション機能を追加する形で構成されており、UTMライセンスやエンタープライズライセンスなどが用意されています。
将来的な拡張性を見越して余裕を持ったライセンス設計をしておくと、再契約の手間が省けます。
物理的な設置環境と冗長化の検討
次に、設置場所の環境条件や冗長化の方針についても確認が必要です。
FortiGate 90Eはコンパクトな筐体ですが、ネットワークの要所に設置する場合、電源供給や温度・湿度管理も含めた物理環境の最適化が安定稼働に繋がります。
また、単一故障点を避けるためにHA構成(High Availability)を組むことで、万が一のハード障害時にも業務継続性を担保することができます。
継続的なログ分析とアップデートの重要性
さらに、運用フェーズでは定期的なログ分析とアップデートが非常に重要になります。 FortiAnalyzerという専用ツールを用いれば、ネットワーク全体の脅威状況を定量的に把握することが可能です。
加えて、FortiOSや定義ファイルのアップデートを定期的に行うことで、常に最新の脅威に対抗する体制を維持することができます。
信頼できるサポート体制の確保
サポート体制についても、製品を長期にわたって安定運用する上で重要です。
Fortinetでは、日本国内の正規販売代理店や認定パートナー企業と連携し、導入からトラブル対応まで幅広くサポートを受けることができます。
また、フォーティネットジャパンによるWebセミナーや技術情報の公開も定期的に行われており、自社の担当者が継続的にスキルアップを図れる環境が整っていることも、運用面での安心材料となります。
おわりに
本記事では、FortiGate 90Eの基本的な機能や仕様、導入メリット、他製品との比較、具体的な活用事例、そして導入・運用上の注意点に至るまで、多角的に解説してきました。
中小企業にとって、情報セキュリティ対策はコストや人材の制約から後回しにされがちですが、一度インシデントが発生すれば、事業の存続そのものを脅かす重大なリスクとなり得ます。
このような状況において、FortiGate 90Eのような信頼性の高い統合セキュリティ製品を導入することは、単なるコストではなく、ビジネスを安定的かつ継続的に成長させるための重要な戦略的投資と言えるでしょう。
FortiGate 90Eは、ファイアウォールとしての高い性能、豊富なセキュリティ機能、管理のしやすさ、そしてコストパフォーマンスのすべてにおいて、非常に優れたバランスを実現しています。
さらに、将来的なネットワーク環境の変化や拡張にも柔軟に対応できる設計がなされており、情報システム部門の担当者やセキュリティエンジニアが製品選定を行う上で、その価値を十分に認識すべき製品です。
企業を取り巻くIT環境は今後も絶えず変化し続けますが、それに柔軟に対応できるセキュリティ基盤を構築することは、外部からの脅威だけでなく、内部の不正やヒューマンエラーといったリスクにも強い組織づくりへと繋がります。
FortiGate 90Eの導入は、その確かな第一歩として、極めて有効な選択肢であると結論付けられます。