【2025年版】次世代ファイアウォール(NGFW)とは?機能・UTMとの違いから具体的な導入ステップまでエンジニアが徹底解説

目次

1. はじめに

初めまして、合同会社Artopeerの越川と申します。
記事をご覧いただきありがとうございます。

私は10年以上にわたり、ウェブアプリケーション開発からサーバー構築まで幅広く経験し、現在はシステムの安定稼働、データ保護、サイバー脅威対策といった分野に注力しています。そのような経験から、現代のビジネス環境におけるデータの重要性と、それを保護する必要性を日々痛感しております。

そして、このデータ保護と脅威対策を統合的に実現する上で、今や欠かせない存在となっているのが、本稿のテーマである「次世代ファイアウォール(NGFW)」です。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、クラウドサービスの利用やリモートワークが常態化する現代において、企業を取り巻くネットワーク環境は大きな変革期を迎えています。

これに伴い、サイバー攻撃の手法もますます高度化・巧妙化しており、従来のセキュリティ対策だけでは企業の情報資産を完全に守ることが困難になっているのです。

本記事では、私のエンジニアとしての経験も交えながら、NGFWがなぜ今必要なのか、その基本的な機能から従来のファイアウォールとの違い、導入によって得られるメリット、そして選定・導入時に注意すべき点までを網羅的に解説します。

セキュリティ対策の見直しを検討されている情報システム部門の担当者様にとって、実践的な指針となることを目指します。

2. NGFW(次世代ファイアウォール)とはなにか

NGFW(Next-Generation Firewall)とは、従来のファイアウォールの機能に加えて、より高度なセキュリティ機能と可視化能力を備えたネットワークセキュリティ製品です。

従来のファイアウォールとの決定的な違い

従来のファイアウォールは、主にOSI参照モデルのレイヤー3(ネットワーク層)やレイヤー4(トランスポート層)で動作し、送信元/宛先のIPアドレスやポート番号、プロトコルといった情報に基づいて通信を制御していました。

一方、NGFWはレイヤー7(アプリケーション層)の情報を識別・制御できる点が最大の特徴です。
これにより、以下のような従来のファイアウォールでは実現できなかった高度な制御が可能になります。

  • アプリケーション識別制御
    同じポート(例: TCP/443)を使用していても、それが「Microsoft 365」なのか、「YouTube」なのか、「悪意のあるWebサイト」なのかを識別し、アプリケーション単位で通信の許可/拒否を設定できます。 
  • ユーザー識別
    Active Directoryなどと連携し、「どの部署の、誰が」どのアプリケーションを利用しているかを可視化・制御します。 
  • 侵入防止システム(IPS/IDS)
    シグネチャに基づき、ネットワークへの攻撃や不正侵入を検知・防御します。 
  • SSL/TLSインスペクション
    暗号化された通信(HTTPSなど)を復号し、その中に潜むマルウェアや不正な通信を検査します。

これらの機能を統合することで、NGFWはポートやIPアドレスだけでは防ぎきれない巧妙なサイバー攻撃に対応します。

3. なぜ今、NGFWが活用されるのか

現代のビジネス環境において、NGFWが必要とされる背景には、主に以下の3つの技術的・環境的変化があります。

① Webアプリケーションの多様化とHTTPS通信の一般化

今日、ほとんどのWebサービスはHTTPS(HTTP over TLS/SSL)によって通信が暗号化されています。
これはユーザーのプライバシー保護に不可欠ですが、攻撃者にとってはマルウェアの侵入経路を隠すための格好の隠れ蓑となります。

従来のファイアウォールでは暗号化された通信の中身までは検査できないため、脅威を見過ごしてしまいます。
NGFWのTLSインスペクション機能は、この課題を解決するために不可欠です。

② 標的型攻撃やゼロデイ攻撃の高度化

特定の企業や組織を狙う「標的型攻撃」や、脆弱性が発見されてから修正パッチが提供されるまでの期間を突く「ゼロデイ攻撃」は、従来のパターンマッチング型のセキュリティ対策だけでは防御が困難です。

NGFWは、脅威インテリジェンス(最新の脅威情報)と連携したIPS機能や、サンドボックス機能(不審なファイルを仮想環境で実行し、挙動を分析する機能)を組み合わせることで、未知の脅威にも対応できる体制を構築します。

③ クラウドシフトとリモートワークの普及

社内ネットワークとインターネットの境界を守るだけの「境界型防御」は、クラウド(IaaS/PaaS/SaaS)利用やリモートワークの普及により、その意味をなさなくなりました。

従業員は場所を問わず、様々なデバイスから社内外のリソースにアクセスします。
NGFWは、こうした分散した環境においても一貫したセキュリティポリシーを適用し、ゼロトラストアーキテクチャの実現に向けた重要な構成要素となります。

4. NGFWの具体的な導入ステップ

NGFWの導入は、単に機器を設置するだけでは完了しません。
その効果を最大限に引き出すためには、計画的なステップを踏むことが重要です。

STEP1: 要件定義と現状分析

目的の明確化
NGFW導入で何を解決したいのか(例: TLS通信の可視化、アプリケーション利用の制御、セキュリティインシデントの削減)を明確にします。

現状把握
既存のネットワーク構成、トラフィックスループット、利用されているアプリケーションの種類と量を正確に把握します。

ここで性能不足に陥らないよう、サイジングが極めて重要です。

STEP2: 製品選定と比較(PoCの実施)

複数のベンダー(Palo Alto Networks, Fortinet, Cisco, Check Pointなど)から候補を選定します。

PoC (Proof of Concept / 概念実証) を実施し、実際のネットワーク環境で性能評価や機能テストを行います。

特に、管理画面の操作性やレポート機能は運用負荷に直結するため、入念に確認すべきです。

STEP3: 設計と構築

物理的な設置場所、冗長構成(HA構成)、ネットワークモード(インライン、透過型など)を決定します。

既存のネットワーク機器との連携や、IPアドレスの割り当て、ルーティング設計を行います。

STEP4: ポリシー設計とチューニング

最も重要なステップです。

最初は通信を拒否しない監視モード(ロギングのみ)で導入し、どのようなアプリケーションが利用されているかを可視化することから始めるのが定石です。

可視化されたログを元に、部署やユーザーグループごとに許可するアプリケーションを定義し、段階的にポリシーを厳格化していきます。

一括で厳しくすると業務影響が大きくなるため、スモールスタートが基本です。

STEP5: 運用と監視

導入後は、ログを定期的に監視し、新たな脅威やポリシー違反がないかを確認します。
インシデント発生時の対応フロー(エスカレーション先、対応手順など)を事前に定めておくことが不可欠です。

5. NGFWのメリット

NGFWを導入することで、セキュリティレベルの向上だけでなく、運用面でも多くのメリットが得られます。

NGFWの主要なメリット

  • セキュリティの強化
    アプリケーションレベルでのきめ細かな制御と脅威検知により、防御能力が飛躍的に向上します。 
  • 可視性の向上
    「誰が、いつ、どのアプリケーションを、どれだけ使っているか」を正確に把握でき、シャドーIT対策にも繋がります。 
  • 運用負荷の軽減
    従来は複数のセキュリティ機器(ファイアウォール、IPS、プロキシなど)で実現していた機能を1台に集約できるため、管理ポイントが減り、運用がシンプルになります。 
  • コンプライアンス対応
    詳細なログとレポート機能により、各種セキュリティ基準への準拠を証明する際の助けとなります。

NGFW・UTM・従来型ファイアウォールの比較

NGFWとよく比較される製品にUTM(Unified Threat Management)があります。
両者は機能的に重複する部分も多いですが、ターゲットとする市場や性能に違いがあります。

機能/項目 従来型ファイアウォール UTM (統合脅威管理) NGFW (次世代ファイアウォール)
主制御レイヤー レイヤー3/4 レイヤー3~7 レイヤー3~7
パケットフィルタリング
アプリケーション識別 × ○ (一部製品) ◎ (高精度)
IPS/IDS × ◎ (高スループット)
アンチウイルス ×
Webフィルタリング ×
TLSインスペクション × △ (性能劣化大) ○ (専用チップ等で高性能)
サンドボックス連携 × △ (一部) ○ (強力な連携)
主なターゲット 小規模~大規模 中小企業(SMB) 中~大規模企業、データセンター
特徴 シンプル、高速 多機能を1台に集約、コストパフォーマンスが高い 高性能、高スループット、詳細な可視化と制御が可能

一般的に、UTMはコストを抑えて多機能を実現したい中小企業向け、NGFWはより高いスループットと高度な脅威防御、詳細な可視化を求める中~大規模企業向けと位置づけられています。

6. NGFWの活用方法

ここでは、具体的な活用方法を2つのシナリオで紹介します。

活用方法1:ゼロトラストネットワークの実現

ゼロトラストは「決して信頼せず、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」という考え方に基づくセキュリティモデルです。

NGFWは、ゼロトラストを実現するための要となるコンポーネントです。

  • マイクロセグメンテーション
    NGFWをデータセンターやクラウド環境の内部に配置し、サーバー間やVPC(Virtual Private Cloud)間の通信を監視・制御します。
     
    これにより、仮に一部のサーバーが侵害されても、攻撃者がネットワーク内部で横展開(ラテラルムーブメント)するのを防ぎます。
     
  • ユーザー/デバイスベースのアクセス制御
    Active DirectoryやIDaaS(Identity as a Service)と連携し、「特定のユーザーグループに属する、セキュリティ対策済みのデバイスからのみ」特定のアプリケーションへのアクセスを許可するといった、動的で厳格なアクセスポリシーを適用できます。

参考文献:

活用方法2:ハイブリッドクラウド環境のセキュリティ確保

多くの企業がオンプレミスと複数のパブリッククラウド(AWS, Azure, GCPなど)を組み合わせたハイブリッドクラウド環境を利用しています。

この複雑な環境全体のセキュリティポリシーを一元的に管理・適用するのは大きな課題です。

参考文献:

NGFWの多くは物理アプライアンスだけでなく、仮想アプライアンス版も提供されています。これを各クラウド環境にデプロイし、一元管理コンソールからオンプレミス・クラウド双方のポリシーを統合管理することで、環境を問わない一貫したセキュリティガバナンスを実現できます。

7. まとめ

本記事では、次世代ファイアウォール(NGFW)について、その基本機能から導入のステップ、具体的な活用方法までをエンジニアの視点で解説しました。

サイバー攻撃が巧妙化し、ビジネス環境が多様化する中で、従来のポートベースの防御には限界が来ています。

アプリケーションやユーザーを正確に識別し、暗号化通信の中身まで検査できるNGFWは、もはや現代の企業ネットワークに不可欠な存在と言えるでしょう。

NGFWは高機能であるがゆえに、その能力を最大限に引き出すには、自社の環境を正確に分析し、段階的かつ計画的に導入・運用していくことが成功の鍵となります。

本記事が、貴社のセキュリティ戦略を一段階引き上げるための一助となれば幸いです。

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