導入完全ガイド2025:中堅企業向けNGFWの決定版.webp)
はじめに
記事をご覧いただき、ありがとうございます。
AIセキュリティ合同会社の越川と申します。
私は10年以上にわたり、ウェブアプリケーション開発からサーバー構築まで幅広く経験し、現在はシステムの安定稼働、データ保護、サイバー脅威対策といった分野に注力しています。そのような経験から、現代のビジネス環境におけるデータの重要性と、それを保護する必要性を日々痛感しております。
そして、このデータ保護と脅威対策を統合的に実現する上で、今や欠かせない存在となっているのが、本稿のテーマである「FortiGate 80F(FG-80F)」です。
サイバー攻撃の高度化と多様化が進む昨今、ネットワークセキュリティの境界防御は企業の情報資産を守る上で極めて重要な要素となりました。特に中堅企業や多拠点展開を行う企業においては、限られたIT予算とリソースの中で、包括的かつ効果的なセキュリティ対策の実装が求められています。
このような課題に対する解として、Fortinet社のFortiGate 80F(FG-80F)は、次世代ファイアウォール(NGFW)の中でも特に注目を集めている製品です。
本記事では、セキュリティエンジニアの視点から、FortiGate 80Fの技術的特徴、導入メリット、具体的な実装手順、さらには他製品との比較まで、製品導入の検討に必要な情報を体系的に解説します。
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次世代ファイアウォール(NGFW)
従来のファイアウォールに加えて、アプリケーションの識別・制御、侵入検知・防止(IPS)機能などを統合したセキュリティソリューションです。
サイバー攻撃の高度化に対応するため、より詳細なパケット検査や、アプリケーション単位でのアクセス制御が可能になっています。
FortiGate 80Fとはなにか
製品概要とポジショニング
FortiGate 80Fは、Fortinet社が提供するFortiGateシリーズの中堅企業向けモデルとして設計された統合セキュリティアプライアンスです。大規模企業の支社や中規模企業に最適な、省スペースでファンレス設計のデスクトップ型ネットワークセキュリティソリューションとして位置づけられており、エントリーモデルでありながら高性能を実現しています。
SoC4プロセッサによる高速処理
FortiGate 80Fの最大の技術的特徴は、Fortinetが独自開発したプロセッサ「SoC4(System on a Chip 4)」の採用です。このカスタムASICチップにより、以下の処理を専用ハードウェアで実行可能です。
- ファイアウォール処理:最大10Gbpsのスループット
- IPS(侵入防止システム):1.3Gbpsの脅威検知処理
- アンチウイルススキャン:700Mbpsのマルウェア検知
- アプリケーション制御:アプリケーション識別と帯域制御
統合セキュリティ機能
FortiGate 80Fは、UTM(統合脅威管理)機能として以下のセキュリティ機能を一台に集約しています。
- 次世代ファイアウォール:L7レベルでのアプリケーション制御
- IPS/IDS機能:シグネチャベースおよび行動分析による脅威検知
- アンチウイルス:リアルタイムスキャンとヒューリスティック分析
- Webフィルタリング:URLカテゴリ制御とコンテンツ検査
- SSL/VPN:IPsecおよびSSL-VPNによるリモートアクセス
- SD-WAN機能:複数WAN回線の最適化とロードバランシング
【イメージ図:FortiGate 80Fの統合機能フローチャート】
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IPS(Intrusion Prevention System:侵入防止システム)
ネットワークを通過する通信を監視し、不正アクセスや攻撃を検知・遮断するセキュリティシステムのことです。
ファイアウォールのようにポート番号やIPアドレスで通信を制御するだけでなく、通信内容を詳細に分析し、より高度な攻撃を検知・防御します。 -
UTM(Unified Threat Management:統合脅威管理)
複数のセキュリティ機能を1台の機器に集約し、ネットワーク全体の脅威を管理するシステムのことです。
ファイアウォール、アンチウイルス、IDS/IPS、アンチスパム、Webフィルタリングなど、様々なセキュリティ機能を統合することで、効率的かつ包括的なセキュリティ対策を実現します。
なぜFortiGate 80Fが活用されるのか
コストパフォーマンスの優位性
従来のセキュリティ対策では、ファイアウォール、IPS、アンチウイルス、VPN装置などを個別に導入する必要がありました。これらを個別調達した場合、初期導入コストが300万円を超えるケースも珍しくありません。
しかし、FortiGate 80Fであれば、これら全ての機能を統合し、大幅なコスト削減を実現できます。
運用管理の簡素化
複数のセキュリティ機器を運用する場合、各機器独自の管理インターフェースを習得し、それぞれの設定を維持する必要があります。FortiGate 80Fでは、単一のGUI(FortiOS)から全ての機能を一元管理できるため、運用負荷を大幅に軽減します。
スケーラビリティと拡張性
中堅企業の成長に伴うネットワーク拡張にも柔軟に対応できる設計となっています。FortiManagerとの連携により、複数拠点の機器を中央集権的に管理することが可能です。また、API連携による自動化や、FortiAnalyzerによるログ分析基盤の構築も容易に実現できます。
セキュアSD-WAN機能
昨今のクラウドファーストの環境において、従来のハブ&スポーク型のWAN構成では、クラウドサービスへのアクセス経路が非効率になる課題がありました。
FortiGate 80FのSD-WAN機能により、トラフィックの種類に応じた最適な経路選択と、暗号化による安全な通信を両立できます。
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FortiManager
Fortinet社が提供するネットワークセキュリティ製品で、複数のFortiGate (フォーティゲート) を一元的に管理するためのアプライアンス製品です。これにより、設定、監視、保守などの管理業務の効率化と負担軽減が可能です。 -
FortiAnalyzer
Fortinet社のセキュリティ製品群であるFortiGateなどのログを一元的に収集・分析し、ネットワークの脅威やセキュリティ状況を可視化するアプライアンス製品です。
FortiGate 80Fの具体的な導入ステップ
事前準備とネットワーク設計
導入前の準備として、以下の項目を検討・準備する必要があります。
1. 要件定義
- 保護対象資産の特定
- セキュリティポリシーの策定
- パフォーマンス要件の明確化
- 可用性要件(SLA)の設定
2. ネットワーク設計
- IPアドレス体系の設計
- VLANセグメンテーション計画
- ルーティング設計
- 冗長化要件の検討
3. ライセンス計画
- FortiGuardサブスクリプションの選択
- FortiCareサポート契約の検討
- 必要に応じたFortiManager/FortiAnalyzerライセンス
初期導入手順
❖ ステップ1:物理的な設置
FortiGate 80Fはファンレス設計のため、静音性が要求される環境にも適用可能です。
ラックマウント用のオプションキットを使用することで、19インチラックへの設置も可能です。
❖ ステップ2:基本設定
初期設定はWebブラウザまたはCLI(Command Line Interface)で実行します。
# 基本的なインターフェース設定例
config system interface
edit "wan1"
set vdom "root"
set ip 192.168.1.100 255.255.255.0
set allowaccess ping https ssh
set type physical
next
edit "internal"
set vdom "root"
set ip 10.0.1.1 255.255.255.0
set allowaccess ping https ssh
set type physical
next
end
❖ ステップ3:セキュリティポリシーの設定
FortiOSのポリシー機能により、きめ細かなアクセス制御を実装可能です。
- 送信元/宛先の定義
- アプリケーション制御ルールの設定
- IPS/AVプロファイルの適用
- ログ取得設定
❖ ステップ4:VPN設定
IPsec VPNまたはSSL-VPNの設定により、リモートアクセス環境を構築します。
- 証明書の生成・配布
- ユーザー認証の設定
- アクセス権限の定義
運用開始後の最適化
導入後は継続的な監視と最適化が重要です。
パフォーマンス監視
- CPU使用率、メモリ使用率の監視
- セッション数、帯域使用率の確認
- レスポンス時間の測定
セキュリティ監視
- 攻撃検知状況の確認
- ウイルス検知ログの分析
- 異常トラフィックの調査
定期的な更新作業
- ファームウェアの更新
- シグネチャの更新
- ポリシーの見直し
FortiGate 80Fのメリット
技術的優位性
FortiGate 80Fは、他の同クラス製品と比較して以下の技術的優位性を持ちます。
TCO(総所有コスト)の優位性
FortiGate 80Fの導入により、3年間のTCOで約40%のコスト削減が期待できます。これは以下の要因によるものです。
- 統合化によるライセンス費用の削減:複数製品の個別ライセンスが不要
- 運用工数の削減:単一インターフェースによる管理効率化で運用工数を50%削減
- 保守費用の最適化:一元的なサポート体制による保守効率化
可用性と信頼性
FortiGate 80Fは、エンタープライズレベルの可用性要件に対応する機能を提供しています。
- HA(高可用性)構成対応:Active-Passive、Active-Active構成の選択が可能
- 冗長化機能:電源、WAN回線、内部ネットワークの冗長化対応
- 障害時の自動切り替え:ハートビート監視による自動フェイルオーバー
- 99.9%以上の稼働率:エンタープライズグレードのSLA提供
活用方法
中小企業や支社・拠点向けに設計されたモデルとして、FortiGate 80Fは様々な業界で活用されています。ここでは、典型的な活用シーンをご紹介します。
シナリオ1.製造業A社の拠点セキュリティ統合
導入前の課題
- 全国15拠点でそれぞれ異なるセキュリティ機器を運用
- 統一されたセキュリティポリシーの適用が困難
- リモートアクセス環境の不備により、テレワーク対応が遅れている状況
導入内容
- 各拠点にFortiGate 80Fを配置し、本社のFortiManagerで一元管理
- IPsec VPNによる拠点間接続の構築
- SSL-VPNによるリモートアクセス環境の整備
- 統一セキュリティポリシーの全拠点展開
導入後の効果
- セキュリティ運用工数を60%削減
- インシデント対応時間を従来の1/3に短縮
- リモートワーク環境の提供により業務継続性を向上
- 年間約200万円のセキュリティ関連コスト削減を実現
シナリオ2.システム開発会社B社のクラウド移行
導入前の課題
- オンプレミス中心のシステムからクラウドサービス活用への移行
- 既存のWAN構成ではクラウドアクセスが非効率
- 開発環境と本番環境のネットワーク分離が不十分
導入内容
- FortiGate 80FのSD-WAN機能を活用したWAN最適化
- ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)の実装
- マイクロセグメンテーションによる環境分離の強化
導入後の効果
- クラウドサービスへのアクセス速度が平均40%向上
- ネットワークセグメンテーションにより、セキュリティインシデントの影響範囲を局所化
- 開発効率の向上により、製品リリースサイクルを20%短縮
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ZTNA(Zero Trust Network Access)
ゼロトラストセキュリティの概念に基づいたネットワークアクセス技術で、「何も信頼しない」という原則を基に、ユーザーやデバイスのアクセスを厳格に制御するものです。
従来のVPNのように一度認証されたら無条件に信頼するのではなく、アクセスするリソースごとに認証と認可を繰り返し行うことで、より安全なアクセスを可能にします。 -
マイクロセグメンテーション
ネットワークをより細かく分割し、各セグメントに異なるセキュリティポリシーを適用することで、セキュリティを強化する手法です。これにより、マルウェアの拡散や不正アクセスなどのリスクを低減し、ゼロトラストセキュリティを実現できます。
まとめ
FortiGate 80Fは、中堅企業や多拠点展開企業のセキュリティ要件に対して、技術的な優位性と経済性を両立した理想的なソリューションです。SoC4プロセッサによる高速処理、統合セキュリティ機能、SD-WAN対応など、現代のネットワーク環境に求められる機能を包括的に提供しています。
セキュリティエンジニアや情報システム部門の担当者にとって、FortiGate 80Fの導入は単なる機器の更新ではなく、組織のセキュリティ成熟度を向上させる戦略的な投資となります。適切な設計と運用により、セキュリティレベルの向上と運用効率化を同時に実現し、デジタルトランスフォーメーションの基盤となるネットワークインフラを構築することが可能です。
導入を検討される際は、自社の要件に合わせた詳細な設計検討と、継続的な運用・改善体制の構築を含めた包括的なアプローチをお勧めします。
参考文献
- Fortinet公式サイト – FortiGate / FortiWiFi 80Fシリーズ データシート:
https://www.fortinet.com/content/dam/fortinet/assets/data-sheets/ja_jp/FG-80F_DS.pdf
- Fortinet公式サイト – FortiGate|次世代ファイアウォール(NGFW):
https://www.fortinet.com/jp/products/next-generation-firewall
- 【3分で分かるFortinet】【第12回】FortiGate Fシリーズの紹介と性能|技術ブログ|C&S ENGINEER VOICE:
https://licensecounter.jp/engineer-voice/blog/articles/20200814_3fortinet12fortigate_f.html
- Fortigate 80F の価格と保守について|ATC構築サービス:
https://www.atc.jp/fortigate-80f-price/