
はじめに
記事をご覧いただき、ありがとうございます。
AIセキュリティ合同会社の越川と申します。
私は10年以上にわたり、ウェブアプリケーション開発からサーバー構築まで幅広く経験し、現在はシステムの安定稼働、データ保護、サイバー脅威対策といった分野に注力しています。そのような経験から、現代のビジネス環境におけるデータの重要性と、それを保護する必要性を日々痛感しております。
特に、テレワーク・リモートワークの普及により、企業のIT環境は劇的に変化しています。
従来のオンプレミス中心のシステムから、クラウドベースのSaaSアプリケーションを活用する形へと移行する企業が急増する中で、セキュリティの課題も複雑化しています。
このような環境変化に伴い、セキュリティ担当者の皆さんには例えば以下のような新たな課題が発生しています。
- シャドーITの把握が困難
- クラウドアプリケーションからのデータ漏洩リスク
- 不正アクセスの検知・防止
- コンプライアンス遵守の確保
そして、このデータ保護と脅威対策を統合的に実現する上で、今や欠かせない存在となっているのが、本稿のテーマである「Microsoft Defender for Cloud Apps」です。
これらの課題を解決するために、Microsoft社が提供するこの包括的なソリューションが、どのように企業のクラウドセキュリティを強化できるかを、実際のエンジニアの視点から詳しく解説します。
注釈
- シャドーIT:企業の情報システム部門が把握・管理していない、従業員が個人的に利用するクラウドサービスやアプリケーション
Microsoft Defender for Cloud Appsとはなにか
製品概要
Microsoft Defender for Cloud Apps(旧称:Microsoft Cloud App Security)は、CASB(Cloud Access Security Broker)機能を中心とした包括的なクラウドセキュリティソリューションです。
注釈
- CASB:企業とクラウドサービス間の通信を監視・制御し、セキュリティポリシーを適用するソリューション
主要機能
Microsoft Defender for Cloud Appsは、90を超えるリスクインジケーターを評価し、検出されたアプリを並べ替え、組織のセキュリティとコンプライアンス体制を評価できるようにします。
具体的には以下の機能を提供します。
1. クラウドアプリケーションの発見・可視化
- 社内で利用されているクラウドアプリの自動検出
- 各アプリのリスクスコア算出
- 利用状況の詳細分析
2. データ損失防止(DLP)
- 機密データの外部送信の監視
- ファイル共有・ダウンロードの制御
- データ分類に基づくアクセス制御
3. 脅威検知・対応
- 異常なユーザー行動の検知
- 不正アクセスの早期発見
- 自動的な対応処理の実行
4. コンプライアンス管理
- 規制要件への準拠状況の確認
- 監査レポートの自動生成
- データ保存場所の追跡
【イメージ図:アーキテクチャの概要】

なぜMicrosoft Defender for Cloud Appsが活用されるのか
1. シャドーITの可視化
Microsoft Defender for Cloud Appsは、組織が利用するクラウドアプリケーション全体をチェックし、異常な動作を検出し、ランサムウェア、侵害されたユーザー、または悪質なアプリケーションなどを特定することができます。
多くの企業では、従業員が個人的に利用するクラウドサービスが把握できておらず、これが重大なセキュリティリスクとなっています。Defender for Cloud Appsは、ネットワークトラフィックの分析により、これらの「見えないアプリ」を発見し、リスク評価を行います。
2. Microsoft 365との深い統合
既にMicrosoft 365を利用している企業にとって、Defender for Cloud Appsは追加の複雑な設定なしに導入できる大きなメリットがあります。
- Single Sign-On(SSO)による統一認証
- Azure Active Directoryとの連携
- Microsoft Sentinelとの統合による高度な分析
3. 機械学習による高度な脅威検知
従来のルールベースの検知では見逃してしまう巧妙な攻撃に対して、機械学習を活用した行動分析により、以下のような脅威を検知できます。
- 異常なデータアクセスパターン
- 通常と異なる時間帯・場所からのアクセス
- 大量データの不審な移動
4. 自動化による運用負荷の軽減
セキュリティ運用チームの人手不足が課題となる中、Defender for Cloud Appsは多くの対応を自動化できます。
- アラート発生時の自動セッション切断
- 条件に基づくアクセス制限
- インシデント対応ワークフローの自動実行
Microsoft Defender for Cloud Appsの具体的なステップ
1. 前提条件の確認
導入前に以下の要件を満たしているか確認します。
必要なライセンス
- Microsoft Defender for Cloud Apps Plan 1 または Plan 2
- Microsoft 365 E5 または E3 + EMS E5
技術要件
- Azure Active Directory Premium P1 以上
- 管理者権限でのアクセス
2. 初期設定
Step 1: Microsoft Defender for Cloud Appsポータルへのアクセス
https://portal.cloudappsecurity.com
Step 2: 基本設定の実施
- 組織設定の構成組織名、タイムゾーンの設定、管理者権限等の割り当てを行ってください。
- IPアドレス範囲の定義社内ネットワークのIPアドレス範囲、外部アクセスとの区別設定等を行ってください。
Step 3: データソースの接続
主要なクラウドサービスとの接続を設定します。
- Microsoft 365:API コネクタの有効化
- Azure:Azure サブスクリプションの連携
- AWS:CloudTrail ログの取得設定
- Google Workspace:API アクセスの許可
3. ポリシー設定
アクセス制御ポリシー例
{
"policy_name": "高リスクアクセス制御",
"conditions": {
"risk_score": "> 70",
"location": "Unknown",
"device_compliance": "Non-compliant"
},
"actions": {
"block_access": true,
"require_mfa": true,
"notify_admin": true
}
}
データ保護ポリシー
必要に応じて、機密データの外部送信を制御するポリシーを設定してください。
- DLP(Data Loss Prevention)ルールの定義
- ファイル共有制限の設定
- 外部ドメインへの送信制限
4. 監視・運用開始
ダッシュボードの活用
- リスクスコアの定期的な確認
- 異常アクティビティの監視
- コンプライアンス状況の追跡
アラート対応フロー
- 自動検知:異常検知時の即座のアラート
- 初動対応:自動的なセッション制限
- 詳細調査:ログ分析による原因特定
- 再発防止:ポリシー見直し・改善
Microsoft Defender for Cloud Appsのメリット
1. 総合的なセキュリティ向上
シャドーITの完全可視化
従来は把握できなかった従業員の個人的なクラウドサービス利用を、リアルタイムで検出・評価できます。
これにより、データ漏洩リスクを大幅に削減できます。
高度な脅威検知
機械学習による行動分析により、従来のセキュリティツールでは検知困難な巧妙な攻撃を発見できます。
2. 運用効率の大幅改善
自動化による工数削減
- 手動でのログ分析作業:80%削減
- インシデント対応時間:60%短縮
- 誤検知によるアラート:50%削減
統一管理による簡素化
Microsoft 365との統合により、複数のセキュリティツールを個別に管理する必要がなくなります。
3. 他製品との比較
機能 | Microsoft Defender for Cloud Apps | Netskope | Zscaler |
---|---|---|---|
シャドーIT検出 | ◎ 90+リスク指標 | ◎ 包括的検出 | ○ 基本的な検出 |
Microsoft 365統合 | ◎ ネイティブ統合 | ○ API連携 | ○ サードパーティ |
機械学習による脅威検知 | ◎ 高度な分析 | ◎ 強力な機能 | ○ 標準的 |
導入コスト | ◎ Microsoft 365利用時優位 | △ 高コスト | △ 高コスト |
日本語サポート | ◎ 完全対応 | ○ 限定的 | ○ 限定的 |
4. ROI(投資対効果)の向上
コスト削減効果
- セキュリティインシデント対応費用:年間500万円削減
- 情報漏洩による損失回避:年間1,000万円以上
- 運用工数削減:年間200時間削減
コンプライアンス強化
- GDPR、ISO 27001等の規制要件への準拠
- 監査対応の簡素化
- リスク管理の透明性向上
活用方法
実際の企業であり得る活用パターンを以下に示します。
1. 製造業での活用例
課題
- 設計図面等の機密情報を扱う設計部門でのシャドーIT利用
- 取引先との情報共有時のセキュリティ確保
解決策
- IP分類による機密データの自動識別
- 外部共有制限ポリシーの適用
- 異常アクセス検知による不正利用防止
効果
- 機密情報の外部流出リスクを90%削減
- 設計部門での不正アプリ利用を完全に可視化
2. 金融業での活用例
課題
- 個人情報保護法・金融庁ガイドラインへの準拠
- 内部不正による顧客データ流出防止
解決策
- DLP(Data Loss Prevention)による個人情報保護
- 異常行動検知による内部不正の早期発見
- 監査ログの自動収集・分析
効果
- 規制要件への確実な準拠
- 監査対応工数を80%削減
- 顧客データの適切な管理を実現
3. 教育機関での活用例
課題
- 学生・教職員による多様なクラウドサービス利用
- 研究データの適切な管理
解決策
- アプリケーション承認制による利用可能アプリの制限
- データ分類による研究データの保護
- アクセス制御による外部からの不正アクセス防止
効果
- 研究データの漏洩リスクを大幅に削減
- IT管理負荷を60%軽減
- 学術機関として求められるセキュリティ水準を達成
4. 運用上の重要ポイント
継続的な改善
- 月次レビュー:検知されたリスクの定期評価
- ポリシー調整:誤検知の削減と検知精度向上
- ユーザー教育:セキュリティ意識の向上
他システムとの連携
- Microsoft Sentinel:高度な分析とSOC機能
- Azure AD:アイデンティティ管理の強化
- Microsoft Purview:データガバナンスの統合
まとめ
Microsoft Defender for Cloud Appsは、現代の企業が直面するクラウドセキュリティの課題を包括的に解決する強力なソリューションです。
主要な導入メリット
- シャドーITの完全可視化による情報漏洩リスクの大幅削減
- 機械学習による高度な脅威検知で従来検知困難な攻撃を発見
- Microsoft 365との深い統合により追加の複雑な設定が不要
- 自動化による運用負荷軽減でセキュリティ運用の効率化を実現
導入を検討すべき企業
- クラウドサービスの利用が急拡大している企業
- Microsoft 365を既に利用している企業
- セキュリティ運用の自動化・効率化を目指している企業
- 規制要件への準拠が求められる業界の企業
クラウドファーストの時代において、Microsoft Defender for Cloud Appsは企業のセキュリティ戦略の中核を担うツールとなるでしょう。
適切な導入と運用により、セキュリティリスクを大幅に削減しながら、業務効率の向上も同時に実現できます。
参考文献
- Microsoft Learn – Microsoft Defender for Cloud Apps概要:
https://learn.microsoft.com/ja-jp/defender-cloud-apps/what-is-defender-for-cloud-apps
- Microsoft Learn – Microsoft Defender for Cloud Apps導入ガイド:
https://learn.microsoft.com/ja-jp/defender-cloud-apps/get-started
- Microsoft 365相談センター – Microsoft Defender for Cloud Apps解説:
https://licensecounter.jp/microsoft365/blog/2022/01/defender-for-cloudapps.html
- 日本ビジネスシステムズ – Microsoft Defender for Cloud Apps:
https://www.jbs.co.jp/solution/managedsecurity_cloudappsecurity
- アールワークス – Microsoft Defender for Cloud AppsとシャドーIT対策:
https://www.rworks.jp/cloud/azure/azure-column/azure-entry/28248/
- Microsoft Security – Microsoft Defender for Cloud Apps製品情報:
https://www.microsoft.com/ja-jp/security/business/siem-and-xdr/microsoft-defender-cloud-apps
- SB C&S – Microsoft Defender for Cloud解説:
https://licensecounter.jp/azure/blog/azure-introduction/microsoft-defender-for-cloud.html