企業のセキュリティを強化する「IAM」とは

目次

はじめに

企業や組織において、従業員やシステム間のアクセスを適切に管理し、情報資産を守ることは喫緊の課題です。

その中で「IAM(Identity and Access Management:アイデンティティおよびアクセス管理)」は、認証・認可の仕組みを一元的に制御し、適切なユーザーだけに必要な権限を付与するためのソリューションとして注目を集めています。

本記事では、セキュリティエンジニアや情報システム部門の担当者が製品導入を検討する際に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

1. IAMの概要と重要性

1.1 IAMの定義

IAMとは、ユーザーの「誰が(Who)」「何に(What)」「どのように(How)」アクセスできるかを一元的に管理する仕組みを指します。

具体的には、ユーザーIDの生成・削除、認証方式の管理、多要素認証の実装、権限ロールの割り当て、アクセスログの収集・分析などをカバーします。

1.2 IAMが企業にもたらす価値

IAMを導入することで、以下のようなメリットが得られます。

  • アカウント管理の運用負荷を大幅に軽減し、ヒューマンエラーを削減できる
  • ゼロトラストセキュリティの実現に向けた基盤を構築できる
  • 監査対応やコンプライアンス要件に対応するための証跡を確実に取得できる
  • 内部不正や外部からの侵入リスクを最小化し、企業信用を向上できる

これらのメリットは、特に大規模環境やクラウドサービスを併用する企業にとって不可欠となっています。

2. IAMが解決する主な課題

2.1 アカウントの増加による管理難

従来、オンプレミスのサーバーやアプリケーションごとに個別のID管理が行われてきましたが、クラウドサービスやモバイル環境の導入が進むにつれ、管理対象のアカウントが爆発的に増加して運用負荷が増大しています。

IAMを導入することで、これらのアカウントを一元的に管理し、ライフサイクルに応じた自動削除や権限見直しを実現します。

2.2 過剰権限の放置

従業員が異動したりプロジェクトが終了した後も、不要な権限が付与されたまま放置されるケースが散見されます。このような過剰権限は、内部不正や情報漏洩の原因となるため、定期的に権限を見直す仕組みが不可欠です。

IAMでは、ロールベースアクセス制御(RBAC)や属性ベースアクセス制御(ABAC)により、組織構造や職務に応じた柔軟な権限管理を実現できます。

2.3 多要素認証(MFA)の未整備

パスワードだけではなりすましリスクが高まる一方で、多要素認証の導入が進んでいない組織も少なくありません。

IAMプラットフォームはMFAを標準でサポートし、SMSやワンタイムパスワード、FIDO2デバイスなど多様な認証要素を組み合わせることで、セキュリティ基盤を強化します。

3. IAMの主要機能と選定ポイント

3.1 アクセスガバナンス機能

アクセスガバナンスとは、誰がいつ何にアクセスしたのかを可視化し、権限付与・変更・削除のワークフローを自動化する機能です。

複数のシステムにまたがる承認プロセスを統合し、管理者の負担を軽減するとともに、監査対応の証跡を確実に取得できます。

3.2 シングルサインオン(SSO)

SSOは一度の認証ですべての連携アプリケーションにアクセスできる仕組みであり、利便性とセキュリティを両立します。SAMLやOAuth 2.0、OpenID Connectなど標準プロトコルへの対応状況を確認し、自社システムやクラウドサービスとの連携をスムーズに行えるかを見極めましょう。

3.3 多要素認証(MFA)対応

MFAはセキュリティ強化に不可欠な機能です。SMSやメール、認証アプリ、ハードウェアトークン、生体認証など、どの認証要素をサポートしているかを比較し、自社のセキュリティポリシーや利用者の利便性を両立できる製品を選定します。

3.4 APIとカスタマイズ性

自社特有のワークフローや既存ツールとの連携を実現するために、APIが充実しているか、SDKやWebhookで柔軟に拡張できるかは重要なポイントです。

導入後に自動化や運用改善を行いやすいプラットフォームを選ぶことで、長期的なTCO(総所有コスト)を抑えられます。

4. IAM導入プロセスとベストプラクティス

4.1 現状分析と要件定義

まずは現在のアカウント構成、権限設計、認証プロセス、利用アプリケーションを棚卸しし、課題を明確にします。

その上で、セキュリティ要件や業務要件を整理し、ユーザー/グループ管理、認証方式、承認フローなどの要件を定義します。

4.2 パイロット運用とPoC(概念検証)

全社導入の前に限られた範囲でPoCを実施し、機能性やパフォーマンス、ユーザビリティを評価します。この段階で課題を洗い出し、設定の微調整や運用手順の整備を行うことで、本番移行時のトラブルを最小化できます。

4.3 本番移行と定常運用

本番環境への移行では、既存アカウントの一括移行、ログ収集の開始、多要素認証の適用範囲拡大などを計画的に実行します。

運用開始後は定期的なアクセスレビュー、権限見直し、自動化ルールの追加などを継続的に行い、常にセキュアな状態を維持します。

4.4 運用の自動化と改善

IAMは導入して終わりではなく、日々の運用で効果を最大化することが重要です。API連携によるユーザーアカウントの自動作成・削除、異常なログイン試行の自動検知と通知、定期的なアクセス権限の棚卸しなど、自動化と改善を継続していくことで運用負荷を抑えつつセキュリティ水準を高められます。

5. IAMを活用したセキュリティ強化事例

5.1 金融機関の事例

ある大手金融機関では、数千人規模のユーザーアカウント管理において手作業での承認がボトルネックとなっていました。

IAM導入後は承認ワークフローを自動化し、多要素認証を全社に適用。承認プロセスの所要時間を従来の平均3日から数時間に短縮し、監査対応の準備に要する工数を50%削減しました。

5.2 製造業の事例

グローバル展開している製造業企業では、各国拠点で異なる認証基盤が混在していたため、セキュリティポリシーの統一が困難でした。IAMプラットフォームを活用し、SAMLベースのSSOを全拠点に展開。

ユーザーは一度のログインで必要なシステムにアクセスできるようになり、現地担当者のサポート負荷が大幅に軽減しました。

6. まとめと今後の展望

IAMは単なる認証・認可のツールではなく、企業のセキュリティ戦略を支える中核的な基盤です。導入検討にあたっては、自社の要件を明確に定義し、PoCでの評価を通じて最適な製品を選定することが成功の鍵となります。

さらに、導入後の運用自動化やアクセスガバナンスの継続的な改善を通じて、セキュリティ水準を段階的に向上させることが重要です。

今後はクラウドサービスやIoT、モバイル環境のさらなる普及に伴い、IAMの役割はますます重要性を増していきます。

ゼロトラスト時代のセキュリティ基盤として、ぜひ本記事を参考に最適なIAM導入を検討してみてください。

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