
はじめに
現代社会において、企業や組織を狙ったサイバー攻撃はますます巧妙化・複雑化しており、その手口も日々進化しています。
このような状況下で、情報システムを安全に運用し、事業継続性を確保するためには、高度なセキュリティ対策が不可欠です。
様々なセキュリティソリューションが存在する中で、近年特に注目を集めているのがSIEM(Security Information and Event Management)です。
本稿では、SIEMの基本的な概念から、その必要性、導入メリット、さらには導入時の課題や成功のポイントに至るまで、網羅的に解説していきます。
SIEMの基本概念と必要性について
SIEMとは
SIEMとは、「Security Information and Event Management」の略で、日本語では「セキュリティ情報およびイベント管理」と訳されることが多いです。
SIEMはネットワーク機器、サーバー、セキュリティ製品などから収集したログを集中管理し、それらをリアルタイムに分析することで、不審な挙動や脅威を検出し、迅速な対応を支援するための仕組みです。
従来型セキュリティの課題とSIEMの役割
従来、組織内で発生するセキュリティイベントは、それぞれの機器に分散して記録されていました。
そのため、たとえばある端末がマルウェアに感染した場合でも、ファイアウォール、アンチウイルスソフト、認証サーバーなどが別々にログを記録していたため、全体像を把握することが難しく、対応が遅れてしまうことがありました。
SIEMはこれらのログ情報を集約し、相関分析を行うことで、複数のイベントのつながりを見出し、攻撃の兆候を早期に発見することを可能にします。
このように、サイバー攻撃に対する初動の迅速化、異常の見逃し防止、コンプライアンス対応など、多くの観点からSIEMは現代の情報セキュリティ対策において不可欠な存在となっています。
SIEM導入による主なメリット
リアルタイムな脅威検知精度の向上
SIEMを導入することで、まず挙げられるのがリアルタイムな脅威検知の精度向上です。
収集された多様なログ情報を基に、予め設定されたルールやAIを用いた機械学習アルゴリズムにより、通常とは異なる挙動を即座に検出できます。
これにより、被害が拡大する前に対処が可能となり、企業におけるセキュリティリスクを大幅に低減できます。
ログの一元管理による監査・インシデント対応の効率化
また、ログ情報を体系的に一元管理することにより、監査対応やインシデント対応が効率化されます。
例えば、特定のユーザーがいつ、どのシステムにアクセスしたかといった操作履歴を遡って確認する作業が容易になり、外部からの監査要求にも迅速に応じることが可能になります。
特に、金融業界や医療業界など、厳格な規制が課せられている業種においては、このようなログの可視化と証跡管理が強く求められており、SIEMがその中核を担うケースが増えています。
セキュリティ運用の負荷削減
さらに、インシデントの検知から対応、報告までの一連のフローを自動化することで、セキュリティ運用にかかる負荷を大きく削減できる点も大きな魅力です。
限られたリソースの中で、より効率的かつ効果的にセキュリティ対策を講じることが可能となります。
他のセキュリティ製品との違いと連携の重要性
SIEMの独自性と多角的分析
SIEMは、ファイアウォールやIPS、アンチウイルスなどと並ぶセキュリティ製品のひとつですが、それらと大きく異なるのは、脅威の検出や対処を単一のデバイスの視点ではなく、複数の情報を横断的に分析することで、より広い視野でのセキュリティ対策を可能にするという点です。
例えば、ファイアウォールは不正な通信を遮断するための装置ですが、単体では通信の中身やその通信がどのような経緯で発生したのかまでを把握することは困難です。
SIEMは、こうした個別機器からのログ情報を統合し、全体の流れや関連性を可視化することで、より高度なセキュリティインテリジェンスを提供します。
各種セキュリティソリューションとの連携
また、EDR(Endpoint Detection and Response)やNDR(Network Detection and Response)といった近年注目されているソリューションとの連携によって、エンドポイントやネットワーク層での脅威検知をさらに強化し、より迅速かつ正確なインシデント対応が可能になります。
SIEM単体ではなく、他のセキュリティツールと組み合わせることで、その真価を発揮するといえるでしょう。
SIEM導入時の課題と注意点
SIEMの導入に際しては、多くのメリットがある一方で、いくつかの課題や注意点も存在します。
設計・構築の難易度
まず、最も大きな壁として挙げられるのが、初期導入時の設計と構築の難しさです。
SIEMは、各種機器やアプリケーションからログを収集し、それらを正確に分析するためのルール設定が必要となります。
対象となる機器やログフォーマットが多岐に渡る場合、収集・解析の精度を担保するためには入念な設計と十分なテストが不可欠です。
インフラ要件とコスト
また、ログの収集・保存には相応のストレージと処理能力が求められるため、インフラ面の整備やコストも考慮しなければなりません。
日々膨大な量のログが生成される中で、それらを適切に保管・管理し、必要なときに迅速にアクセスできる環境を整える必要があります。
継続的な運用体制の必要性
さらに、SIEMは導入して終わりではなく、継続的なルールの見直しや運用体制の構築が求められます。
脅威の手法は日々進化しているため、過去のパターンだけで全てを検出することは困難です。
最新の脅威動向を踏まえたチューニングや、人材の育成も並行して進める必要があります。
代表的なSIEM製品の特徴と比較
現在、SIEM市場にはさまざまな製品が存在しており、それぞれに特徴や強みがあります。
主要SIEM製品の紹介
たとえば、IBMのQRadarは、機械学習と相関分析機能に優れ、大規模環境でも安定したパフォーマンスを発揮する製品として知られています。
Splunkは、その高い拡張性と柔軟な検索機能から、多様なログ形式への対応や高度な可視化を重視する企業に好まれています。
クラウドネイティブSIEMとその他製品
また、Azure SentinelはクラウドネイティブなSIEMとして、Microsoft製品との連携に強みを持ち、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境に適した設計となっています。
LogRhythmは、インシデント対応機能が豊富で、中規模から大規模な組織に対してバランスの良い選択肢といえるでしょう。
製品選定のポイント
各製品の導入に際しては、自社のIT環境や業務要件にどの製品が最適かを慎重に見極めることが重要です。
たとえば、クラウドシフトが進んでいる企業であれば、クラウド対応に優れた製品を選定することで、将来的な拡張性と運用のしやすさが確保されます。
SIEM導入の進め方と成功のポイント
SIEMの導入を成功させるためには、単なるツールの導入にとどまらず、組織全体としてのセキュリティ運用体制を整備する必要があります。
導入準備段階
まずは、自社が抱えるリスクと課題を明確にし、SIEMに期待する役割を具体化することが出発点です。
次に、導入対象とするシステムや機器、ログの範囲を定め、段階的に適用範囲を拡大していくアプローチが推奨されます。
段階的導入と外部連携
初期段階では、限定された範囲でのパイロット導入を行い、その成果と課題を明らかにすることで、スムーズな本格導入につなげることができます。
また、ベンダーや外部パートナーとの連携も成功の鍵となります。
豊富な実績を持つベンダーのサポートを得ることで、導入から運用までの負荷を軽減できるだけでなく、最新のノウハウを活用することが可能です。
継続的な改善と目標設定
最終的には、SIEMの導入を通じて、組織としてのセキュリティレベルを継続的に向上させることが目標です。
そのためには、定期的な評価と改善を行い、変化する脅威に柔軟に対応できる体制を築くことが求められます。
おわりに
本稿で見てきたように、SIEMは現代の複雑なセキュリティ環境において、ログ情報を集約・分析し、脅威を早期に発見・対応するための強力なソリューションです。
その導入は、リアルタイムな脅威検知、効率的なインシデント対応、そしてコンプライアンス強化といった多大なメリットを組織にもたらします。
しかしながら、SIEMはその導入と運用に計画性と専門知識を要するツールでもあります。
自社の状況を的確に把握し、適切な製品を選定し、そして何よりも継続的な運用体制を構築することが、SIEMを真に活用し、セキュリティレベルを向上させるための鍵となります。
SIEMは単なる「箱」ではなく、組織のセキュリティ戦略と一体となって初めてその真価を発揮するのです。
今後もサイバー攻撃は進化し続けるでしょう。
そのような中で、SIEMを中心とした多層的な防御と、変化に即応できる運用体制の確立は、あらゆる組織にとってますます重要な課題となるはずです。
本稿が、SIEM導入を検討されている方々の一助となれば幸いです。