NDR とは ~高度化するサイバー攻撃への新たな対抗策~

目次

はじめに

サイバー攻撃の脅威がかつてないほど高まり、その手口も巧妙化の一途をたどる現代において、企業や組織におけるセキュリティ対策は喫緊の課題となっています。

従来の境界型防御だけでは防ぎきれない攻撃が増加し、侵入を前提とした対策、すなわち侵入後の迅速な検知と対応の重要性が叫ばれるようになりました。

本稿では、こうした背景のもとで注目を集めている「NDR(Network Detection and Response)」について、その基本的な定義から仕組み、導入のメリット、さらには今後の展望に至るまで、網羅的に解説していきます。

なぜ今NDRが必要とされ、従来のセキュリティ対策と何が違うのか、そして自社に適したNDRをどのように選定・導入すべきか、そのポイントを明らかにします。

NDR(Network Detection and Response)とは

NDRの定義と目的

近年、サイバー攻撃の手口はますます高度化・巧妙化しており、従来の境界防御型セキュリティでは対応しきれないケースが増加しています。

特にゼロデイ攻撃や内部不正、あるいは境界をすり抜けるマルウェアなどの脅威に対して、いかに早期に異常を検知し、対応するかが重要な課題となっています。

このような背景から、近年急速に注目されているのがNDR(Network Detection and Response)です。

従来の対策との違い

NDRとは、ネットワーク全体の通信を常時監視し、その挙動をリアルタイムで分析することで、潜在的な脅威や不正アクセス、マルウェア活動などを高精度に検知し、迅速な対応を支援するセキュリティ技術のことを指します。

これにより、従来のアンチウイルスやファイアウォール、IDS/IPSだけでは検知が難しい攻撃にも対応可能となり、ネットワークの可視性とセキュリティレベルを飛躍的に向上させることができます。

なぜ今NDRが必要なのか?現代企業が抱えるセキュリティ課題と限界

サイバー攻撃の進化

サイバー攻撃の多様化に伴い、企業が直面するセキュリティリスクは増大の一途をたどっています。攻撃者は標的型攻撃やAPT(Advanced Persistent Threat)などを駆使し、企業の内部ネットワークに長期間潜伏しながら情報を窃取する手法を取っています。

また、従業員のテレワーク化やクラウドサービスの利用拡大により、ネットワークの境界が曖昧になっていることも、セキュリティ上の盲点を生み出しています。

従来のセキュリティ対策の限界

従来のセキュリティ対策では、こうした複雑な脅威を網羅的にカバーすることは困難です。特に、次のような課題が浮き彫りとなっています。

まず、ファイアウォールやIPSといった境界型防御は、あくまでネットワークの入口や出口での攻撃のブロックを目的としているため、内部ネットワークでの横展開や権限昇格といった動きには対応できません。

次に、SIEM(Security Information and Event Management)のようなログベースの監視では、事後的な分析には強みがあるものの、リアルタイムでの脅威検知や対処にはタイムラグが生じがちです。

加えて、EDR(Endpoint Detection and Response)も、エンドポイントにエージェントを導入する必要があるため、すべての端末をカバーできないケースが存在します。

NDRの仕組みと技術的特徴:他のソリューションとの違いとは

データ収集と分析技術

NDRはネットワークトラフィックを深く分析する技術であり、その中核にはフルパケットキャプチャやネットフローデータの収集、さらにはSSL/TLS復号などが含まれています。

これらの技術により、ネットワーク上を流れるすべての通信を対象として、アプリケーション層まで含めた詳細な分析が可能になります。

AIと機械学習の活用

また、NDRの最大の特徴の一つは、AIおよび機械学習を活用した異常検知アルゴリズムの搭載です。

これは、過去の正常な通信パターンを学習し、そこから外れた挙動を「異常」として検出するアプローチを取っており、シグネチャベースの製品では見逃されがちな未知の攻撃やゼロデイ攻撃にも対応できます。

相関分析と自動対応

さらに、NDRは単なる検知だけでなく、相関分析やインシデントレスポンス機能を備えていることが多く、脅威の発生源や影響範囲の特定、対応措置の推奨などを統合的に支援します。

一部の製品ではSOAR(Security Orchestration, Automation and Response)との連携も可能で、アラートに基づいた自動対応フローの構築も実現できます。

他ソリューションとの統合

他のセキュリティソリューションとの連携面でも優れており、SIEMやEDRと連携することで、より包括的なセキュリティ態勢を構築することが可能です。

NDRはあくまでネットワークレベルでの視点を提供するものであり、エンドポイントやログ、ID管理といった他の視点と組み合わせることで、クロスレイヤーでの相関分析が実現し、より精度の高い脅威対応を実現できます。

NDR導入のメリットとユースケース:どのような企業に向いているか

可視化と検知精度の向上

NDRの導入によって得られる最大のメリットは、ネットワーク全体の可視化と、未知の脅威に対する高精度な検知能力です。

企業ネットワークは日々膨大な通信データを取り扱っており、その中には外部との正常なやり取りもあれば、不正アクセスやマルウェアによる不審な通信も混在しています。

NDRはこのようなトラフィックを一元的に監視し、正常な状態から逸脱した挙動をリアルタイムで検知することにより、セキュリティインシデントの早期発見と被害の最小化を可能にします。

具体的な活用シナリオ

たとえば、特定の端末から不審な国外IPアドレスへの通信が継続している場合や、営業時間外に内部サーバから大容量のデータが転送されているといった挙動は、NDRによって即座にアラートとして通知されます。

これにより、情報漏洩の防止や内部不正の早期発見が実現できます。

業種ごとの導入メリット

また、NDRは業種・業態を問わずさまざまな企業に導入メリットがありますが、特に以下のような組織に適しています。

まず、機密情報を多く扱う製造業や金融業、医療機関といった分野では、情報漏洩のリスクが大きいため、NDRのような高度な監視技術は不可欠です。

また、全国に拠点を持ち、多数の端末やネットワークを管理している企業にとっても、NDRの集中管理と可視化機能は有効です。

さらに、ゼロトラストセキュリティを志向する企業においても、ネットワーク上のあらゆる通信を検証・監視するNDRは、その構成要素として非常に相性が良いと言えるでしょう。

NDRの導入ポイントと選定基準:失敗しないための実践ガイド

導入目的の明確化

NDRを導入するにあたり、いくつかの重要なポイントと選定基準を押さえておくことが、導入後の効果を最大化するためには欠かせません。

まず、導入目的を明確にすることが大前提となります。自社が直面しているセキュリティ課題、例えば「内部不正を検知したい」「ゼロデイ攻撃に対応したい」「ネットワークの可視性を高めたい」といったニーズを整理し、それに対応できる製品を選ぶことが重要です。

ネットワーク構成との整合性

次に、ネットワーク環境への影響を最小限に抑える構成を検討する必要があります。NDRは通常、ネットワークのスパンポートやタップからトラフィックをミラーリングして取得する構成が一般的です。

そのため、物理・仮想問わず自社のネットワーク構成に適した導入方法をあらかじめ検証することが求められます。

検知精度と運用負荷のバランス

また、検知精度と誤検知率のバランスも選定時に注目すべき点です。過剰なアラートが発生するとセキュリティチームの負担が増大し、かえって本来の脅威を見落とすリスクがあります。

優れたNDR製品は、適切なチューニング機能とフィルタリング機能を備えており、業務影響を最小化しながら本質的な脅威を確実に検出できます。

操作性と他製品との連携

UIや操作性も重要なファクターです。アラート内容の可視化、脅威のトリアージ、フォレンジック分析のしやすさなど、実際に運用するセキュリティエンジニアが使いやすいと感じる製品を選ぶことで、導入後の効果を最大化できます。

加えて、他のセキュリティツールとの連携性も確認しておくとよいでしょう。

SIEMやEDR、SOARと連携することで、NDRが単体で担う以上の脅威検出能力と対応力を発揮します。APIベースでの柔軟な連携が可能かどうかも選定のポイントとなります。

今後のセキュリティ戦略におけるNDRの位置づけと展望

ゼロトラストとNDRの相性

NDRは、これからの企業セキュリティにおいて中核を担う存在として、今後さらに重要性を増していくことが予想されます。

特にゼロトラストモデルの実装が進む中で、ネットワーク上のすべての通信を継続的に監視・評価する必要性が高まっており、そのニーズに応えるのがまさにNDRの技術です。

XDRとの統合と発展

今後はNDRと他のセキュリティ製品との融合が一層進むと見られています。

例えば、XDR(Extended Detection and Response)のような統合的な脅威対応基盤において、NDRが提供するネットワーク視点の検知情報は極めて価値が高く、ログやエンドポイントデータと組み合わせることで、インシデントの全体像を迅速かつ正確に把握できるようになります。

AIの進化と将来像

また、AIの進化に伴い、NDRの検知精度や対応能力もますます向上していくでしょう。将来的には、より自律的に脅威を判断し、自動で封じ込めや通信遮断を行う機能が一般化することも想定されます。

これにより、限られたセキュリティ人材でも高度な対応が可能となり、企業全体のセキュリティレベルを底上げすることが期待されます。

今こそ導入すべき理由

セキュリティの主戦場がネットワーク内部に移行しつつある現在、NDRはまさにその変化に対応する鍵を握る技術です。

導入を検討している企業にとって、今このタイミングでNDRの価値と可能性を正しく理解し、適切な選定と運用体制を整えることが、未来のリスクに備えるための最も確かな一歩となるでしょう。

おわりに

本稿では、現代の複雑化するサイバー攻撃に対する有効な手段として、NDRの重要性とその多岐にわたる側面について解説してきました。

NDRは、ネットワーク全体のトラフィックを監視・分析することで、従来のセキュリティ対策では見逃されがちな脅威を早期に検知し、迅速な対応を可能にするソリューションです。

その導入は、ネットワークの可視化、未知の脅威への対応力強化、そしてインシデント発生時の被害最小化に大きく貢献します。

AIや機械学習といった先進技術の活用により、NDRは今後ますます高度化し、ゼロトラストセキュリティやXDRといった新たなセキュリティパラダイムにおいても中核的な役割を担っていくことが期待されます。

自社のセキュリティ課題を的確に把握し、本稿で示した導入ポイントや選定基準を参考にしながら、最適なNDRソリューションを選定・導入することは、未来の脅威から企業を守るための賢明な投資と言えるでしょう。

この記事が、皆様のNDRへの理解を深め、より強固なセキュリティ体制構築の一助となれば幸いです。

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