
はじめに
現代のビジネス環境において、サイバーセキュリティは企業活動の根幹を支える重要な要素となっています。
特に、多様化・高度化する脅威から社内ネットワークを守るためには、従来のファイアウォール機能だけでなく、アプリケーションの可視化や不正侵入防御といった次世代のセキュリティ機能を備えたソリューションが不可欠です。
Cisco Firepowerシリーズは、そうした市場の要求に応える次世代ファイアウォール(NGFW)の代表的な製品群であり、中でも「FPR1120 ASA K9」は、中小規模のオフィスや支社拠点向けに設計されたモデルとして注目されています。
本稿では、このFPR1120 ASA K9が持つ技術的な特徴や性能、運用上のポイント、そしてライセンス体系について詳しく解説し、導入を検討する上での判断材料を提供します。
FPR1120 ASA K9の技術的な特徴と性能
FPR1120 ASA K9の最大の魅力は、Cisco独自のハードウェアアーキテクチャとFirepower Threat Defense(FTD)ソフトウェアを組み合わせることで、高度な脅威対策を提供しながらも操作性とパフォーマンスのバランスが取れている点にあります。
FPR1120は最大2Gbpsのファイアウォールスループットを備え、支社や中小企業のインターネットゲートウェイとしては十分な処理能力を発揮します。
ハードウェア仕様とデザイン
ハードウェア仕様としては、1Uサイズのコンパクトな筐体に、8つのRJ-45ポートを搭載しており、スイッチ的なレイヤ2構成から、ルーティング構成まで柔軟な設計が可能です。
PoEやSFPポートには非対応ながら、コンパクトな構成で配線や設置性に優れていることも特筆すべきポイントです。また、ファンレス設計により静音性も高く、オフィス環境への設置にも適しています。
2つの運用モード:ASAとFTD
FPR1120はASA(Adaptive Security Appliance)とFTD(Firepower Threat Defense)のいずれかのOSを選択して動作させることができます。
ASAモードでは、従来のCLIベースの操作やASDMを用いた管理が可能で、ACL、NAT、VPNといった機能に特化した構成が得意です。
一方、FTDモードでは、Cisco FMC(Firepower Management Center)やFDM(Firepower Device Manager)と連携して、GUIベースでの一元管理が実現されます。脅威インテリジェンスやURLフィルタリング、アプリケーション可視化など、次世代ファイアウォール機能を最大限に活かした運用が可能となります。
強力な暗号化機能
暗号機能面では、K9モデルであるためIPsec VPNやSSL VPN、TLS暗号などのセキュリティ通信も万全にサポートしており、リモートワーク需要の高まりにも対応できます。
ライセンス管理も「Smart Licensing」に対応しており、ライセンス状態やデバイスの状況を統一的に把握することができます。
運用上の注意点
運用において注意すべき点としては、ASAモードとFTDモードの間でのOS切り替えには初期化が必要となるため、導入前にどちらのモードで運用するかを明確に決めておくことが求められます。
また、FMC(Firepower Management Center)を用いた統合管理を行う場合には、別途ライセンスや管理サーバが必要となるため、ネットワーク全体の規模や管理体制に応じた計画が必要です。
ログ管理と外部連携
ログ管理については、SyslogやNetFlow、SNMPといった標準プロトコルに対応しているため、SIEMなどの外部システムと連携したセキュリティ監視も容易に構築できます。
これにより、セキュリティ運用センター(SOC)との連携が求められる企業にも適した選択肢となっています。
ライセンス体系とコストの考え方
FPR1120 ASA K9の導入に際して、もう一つ重要な検討ポイントとなるのがライセンス体系です。
機能ベースのサブスクリプションライセンス
本モデルはベースとなるハードウェアに加えて、機能に応じたサブスクリプションライセンスを追加する形を取っています。
代表的なライセンスには、Threat(脅威対策)、URL Filtering(URL制御)、Malware(マルウェア防御)などがあり、これらをまとめて提供する「Cisco Secure Threat Defense」バンドルが用意されています。
必要なライセンスの選定
特にFTDモードでの運用を選ぶ場合は、これらのライセンスに加えて、FMCによる一元管理を行う場合の追加ライセンスや、Cisco SecureXとの統合連携のためのライセンスも検討対象となるでしょう。
リモートアクセスVPNを使用する場合には、AnyConnectライセンスの購入も必要です。ライセンス体系がやや複雑であるため、事前に導入規模や必要な機能を明確にし、Cisco認定のパートナーや販売代理店と相談しながら進めるのが安全です。
保守サポート契約の重要性
初期コストに加えて、保守サポート契約(Smart Net Total Careなど)も考慮に入れる必要があります。
これにより、ハードウェアの故障対応やソフトウェアのアップデート、テクニカルサポートが提供され、安定した運用を継続することができます。
おわりに
Cisco FPR1120 ASA K9は、コンパクトな筐体に優れたパフォーマンスと高度なセキュリティ機能を凝縮した、中小規模ネットワーク向けの強力なソリューションです。
従来のASAで培われた安定性と、FTDによる次世代の脅威対策機能を、運用方針に応じて選択できる柔軟性が最大の強みと言えるでしょう。
導入を成功させる鍵は、自社のセキュリティポリシーや運用体制に最適なモード(ASAまたはFTD)を事前に見極め、必要となる機能をカバーするライセンスを慎重に選定することにあります。
ライセンス体系は複雑に感じられるかもしれませんが、パートナーと連携して計画的に進めることで、コストを最適化しながらセキュリティレベルを大幅に引き上げることが可能です。
適切な計画と設定のもとで、FPR1120 ASA K9は企業の貴重な情報資産を守る、信頼性の高いゲートウェイとして機能してくれるはずです。