ランサムウェア攻撃の現状と脅威
ランサムウェアとは何か?
ランサムウェアは、感染したコンピュータやサーバー内のデータを暗号化し、その復号と引き換えに金銭(身代金)を要求する悪意のあるソフトウェアです。近年、ランサムウェア攻撃の手口はますます巧妙化しており、標的とする組織も大企業から中小企業、さらには医療機関や教育機関といった公共機関まで、規模や業種を問わず拡大しています。 ランサムウェアは、一旦システムに侵入すると、ネットワーク全体に拡散し、業務システムを停止させたり、重要なデータを人質に取ったりすることで、企業活動に深刻な影響を与えます。身代金を支払ったとしても、必ずデータが復号されるとは限らず、攻撃者は再び攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。そのため、ランサムウェア対策は企業にとって喫緊の課題となっています。 ランサムウェア攻撃は進化し続けており、従来の対策だけでは防御が困難になっています。企業は、常に最新の脅威情報を収集し、多層防御のアプローチでセキュリティ対策を強化する必要があります。
日本におけるランサムウェア攻撃の傾向
日本国内におけるランサムウェア攻撃は、グローバルな傾向と同様に、高度化・巧妙化の一途をたどっています。特に、サプライチェーン攻撃や二重脅迫といった手口が顕著になっています。サプライチェーン攻撃は、取引先などの中小企業を経由して大企業を攻撃するもので、セキュリティ対策が手薄な中小企業が狙われやすい傾向にあります。二重脅迫は、データの暗号化に加えて、盗み出した情報を公開すると脅迫するもので、企業は身代金の支払いを迫られるだけでなく、社会的信用を失うリスクにも晒されます。 リモートワークの普及も、ランサムウェア攻撃の増加に拍車をかけています。VPN機器の脆弱性を狙った攻撃が増加しており、従業員の自宅のネットワーク環境が不十分な場合、そこが攻撃の足掛かりとなる可能性もあります。企業は、リモートワーク環境におけるセキュリティ対策を徹底し、従業員のセキュリティ意識を高める必要があります。 近年では、ランサムウェア攻撃グループが、特定の企業や業界を標的に定めて集中的に攻撃を行うケースも増えています。企業は、自社の属する業界や事業特性に応じて、想定されるリスクを洗い出し、適切な対策を講じる必要があります。
具体的な攻撃の種類
現在、LockBit, Conti,Ryukなどのランサムウェアグループが活発に活動しており、日本国内の企業もこれらのグループによる攻撃を受けています。これらのグループは、既知の脆弱性やゼロデイ脆弱性を悪用し、企業ネットワークに侵入します。侵入後は、ActiveDirectoryなどの認証情報を窃取し、ネットワーク全体にランサムウェアを拡散させます。 LockBitは、RaaS(Ransomware as aService)と呼ばれるビジネスモデルを採用しており、アフィリエイトと呼ばれる協力者にランサムウェアを提供し、攻撃を実行させています。Contiは、高度な技術力を持つランサムウェアグループであり、標的型攻撃を得意としています。Ryukは、身代金の要求額が高額であることで知られています。 これらのランサムウェアグループは、攻撃対象の企業の規模や業種に応じて、攻撃手法や身代金の要求額を変えています。企業は、これらのグループの活動状況を常に把握し、自社が標的にされる可能性を考慮して、セキュリティ対策を強化する必要があります。 また、近年では、ランサムウェア攻撃に加えて、DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)を組み合わせることで、企業への圧力を高める手口も確認されています。企業は、ランサムウェア対策だけでなく、DDoS対策も併せて検討する必要があります。
国内企業のランサムウェア被害事例
KADOKAWAグループのランサムウェア被害
2024年6月、大手出版社であるKADOKAWAグループがランサムウェア攻撃を受け、同社が運営するニコニコ動画などのサービスが一時的に利用停止となる事態が発生しました。この攻撃により、サーバーが暗号化され、システムの復旧に時間を要しました。また、顧客情報や機密情報が漏洩した可能性も指摘されており、個人情報保護委員会への報告も行われています。 KADOKAWAグループは、攻撃を受けた後、速やかに外部の専門家による調査を開始し、復旧作業を進めました。また、警察にも被害を届け出て、捜査に協力しています。この事件は、大手企業であってもランサムウェア攻撃の標的となりうることを示しており、多くの企業に警鐘を鳴らすこととなりました。 この事件を受け、KADOKAWAグループは、セキュリティ体制の見直しと強化を進めています。具体的には、ネットワークの分離、多要素認証の導入、従業員へのセキュリティ教育の徹底など、多岐にわたる対策を講じています。また、サプライチェーン全体のセキュリティ強化にも取り組んでいます。 KADOKAWAグループのランサムウェア被害は、企業がランサムウェア攻撃を受けた場合の事業継続計画(BCP)の重要性を示す事例としても注目されています。企業は、ランサムウェア攻撃を想定したBCPを策定し、定期的に訓練を実施することで、被害を最小限に抑えることができます。
富士通におけるランサムウェア被害
富士通は過去に、同社の顧客企業がランサムウェア攻撃を受け、その影響で顧客情報を含む情報漏洩が発生した事例があります。富士通自身も、2021年にプロジェクト情報などが保存されたファイルサーバーへの不正アクセス被害を受けています。これらの事件を教訓として、富士通はセキュリティ対策の強化に積極的に取り組んでいます。 具体的には、セキュリティ監視体制の強化、インシデント対応能力の向上、従業員へのセキュリティ教育の徹底などを行っています。また、顧客企業に対して、セキュリティに関するアドバイザリーサービスやソリューションを提供することで、サプライチェーン全体のセキュリティ強化にも貢献しています。 富士通は、ランサムウェア対策として、多層防御のアプローチを採用しています。具体的には、ファイアウォール、IPS/IDS、アンチウイルスソフト、EDRなどのセキュリティ対策を組み合わせることで、多角的に攻撃を防御しています。また、定期的な脆弱性診断を実施し、潜在的なリスクを洗い出すことで、セキュリティレベルの向上を図っています。 富士通の事例は、ランサムウェア攻撃が企業だけでなく、その顧客企業にも影響を及ぼす可能性があることを示しています。企業は、自社のセキュリティ対策だけでなく、サプライチェーン全体のセキュリティ対策にも目を向ける必要があります。
岡山県精神科医療センターの被害事例
岡山県精神科医療センターでは、ランサムウェア感染により電子カルテシステムが停止し、診療に大きな影響が出ました。電子カルテシステムが利用できなくなったことで、患者の診療記録が参照できなくなり、診察や投薬に支障が生じました。また、患者情報漏洩のリスクも生じ、医療機関におけるセキュリティ対策の重要性が改めて認識されました。 この事件を受け、岡山県精神科医療センターは、電子カルテシステムの復旧作業を行うとともに、セキュリティ対策の見直しを行いました。具体的には、ネットワークの分離、アクセス制御の強化、バックアップ体制の強化などを行っています。また、職員へのセキュリティ教育を徹底し、セキュリティ意識の向上を図っています。 医療機関は、患者の個人情報という非常に重要な情報を扱っているため、ランサムウェア攻撃の標的となりやすい傾向があります。医療機関は、ランサムウェア対策を徹底し、患者情報の保護に万全を期す必要があります。具体的には、電子カルテシステムなどの重要システムに対するアクセス制御を強化し、定期的なバックアップを実施するとともに、復旧手順を確立しておく必要があります。 岡山県精神科医療センターの事例は、ランサムウェア攻撃が医療機関の診療業務に深刻な影響を及ぼす可能性があることを示しています。医療機関は、ランサムウェア対策を最優先課題として捉え、積極的に取り組む必要があります。
中小企業を狙うランサムウェア攻撃
中小企業が狙われる理由
中小企業は大企業に比べて、一般的にセキュリティ対策が手薄であるため、攻撃者にとって比較的容易に侵入できる標的となります。予算や人員の制約から、最新のセキュリティ技術の導入や専門的なセキュリティ人材の確保が難しい場合が多く、セキュリティ対策が後手に回りがちです。また、経営者のセキュリティ意識が低い場合、従業員へのセキュリティ教育も十分に行き届かないことがあります。 中小企業がサプライチェーンの一角を担っている場合、そこを突破口として大企業への攻撃に繋げるケースもあります。攻撃者は、中小企業を足掛かりに、より機密性の高い情報や重要なシステムを持つ大企業への侵入を試みます。特に、製造業や建設業など、サプライチェーンが複雑な業界では、中小企業のセキュリティ対策が全体のセキュリティレベルを左右する可能性があります。 中小企業は、大企業に比べて情報セキュリティに関する情報収集能力が低い場合が多く、最新の脅威動向や対策に関する知識が不足していることがあります。そのため、攻撃者は、中小企業のセキュリティ対策の弱点を突いて、ランサムウェア攻撃を成功させやすくなります。 中小企業は、ランサムウェア攻撃によって事業継続が困難になるリスクがあります。攻撃によってシステムが停止した場合、業務が滞り、売上が減少するだけでなく、顧客からの信頼を失う可能性もあります。また、身代金を支払ったとしても、必ずデータが復号されるとは限らず、攻撃者は再び攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。
具体的な被害事例
ある製造業の中小企業では、ランサムウェア感染により生産ラインが停止し、納期遅延が発生しました。この企業は、セキュリティ対策が不十分であったため、従業員のパソコンがランサムウェアに感染し、社内ネットワーク全体に感染が拡大しました。その結果、生産管理システムや在庫管理システムが停止し、生産ラインがストップしてしまいました。 別の事例では、顧客情報を取り扱うサービス業の中小企業で、ランサムウェア感染により顧客情報が漏洩し、損害賠償問題に発展しました。この企業は、顧客情報を暗号化せずに保存していたため、ランサムウェア攻撃によって顧客情報が盗み出され、インターネット上に公開されてしまいました。その結果、顧客からの信頼を失い、損害賠償訴訟を起こされる事態となりました。 また、建設業の中小企業では、ランサムウェア感染により設計図などの機密情報が暗号化され、業務が完全に停止しました。この企業は、バックアップ体制が不十分であったため、データの復旧に多大な時間を要し、事業継続が困難になりました。その結果、顧客との契約を解除される事態となり、経営状況が悪化しました。 これらの事例からわかるように、中小企業がランサムウェア攻撃を受けると、事業継続が困難になるだけでなく、顧客からの信頼を失ったり、損害賠償問題に発展したりする可能性があります。中小企業は、ランサムウェア対策を徹底し、事業継続計画(BCP)を策定しておく必要があります。
ランサムウェア攻撃から企業を守るための対策
多層防御の導入
ランサムウェア攻撃から企業を守るためには、単一のセキュリティ対策に頼るのではなく、複数のセキュリティ対策を組み合わせた多層防御のアプローチが不可欠です。多層防御とは、異なる種類のセキュリティ対策を多重に配置することで、一つの対策が突破されても、別の対策で攻撃を阻止できるようにする考え方です。 具体的には、ファイアウォール、アンチウイルスソフト、侵入検知システム(IDS)/侵入防御システム(IPS)、Webフィルタリング、メールセキュリティなどのセキュリティ対策を組み合わせます。これらの対策は、それぞれ異なる役割を担っており、互いに補完し合うことで、より強固な防御体制を構築することができます。 EDR(EndpointDetection andResponse)の導入も有効です。EDRは、エンドポイント(パソコン、サーバーなど)における不審な挙動を検知し、分析することで、ランサムウェア感染の初期段階で対応することができます。EDRは、従来のアンチウイルスソフトでは検知できない未知のマルウェアや、標的型攻撃にも対応できるため、近年注目されています。 多層防御を導入する際には、各セキュリティ対策の設定を適切に行い、常に最新の状態に保つことが重要です。また、定期的にセキュリティ対策の効果を検証し、必要に応じて見直しを行う必要があります。多層防御は、一度導入すれば終わりではなく、継続的な運用と改善が求められる対策です。
脆弱性対策の徹底
OSやソフトウェアの脆弱性は、ランサムウェア攻撃の主要な侵入経路の一つです。攻撃者は、脆弱性を悪用してシステムに侵入し、ランサムウェアをインストールします。そのため、脆弱性対策を徹底することは、ランサムウェア攻撃から企業を守る上で非常に重要です。具体的には、OSやソフトウェアのアップデートを速やかに適用し、脆弱性を解消することが重要です。 アップデートには、セキュリティパッチが含まれており、脆弱性を修正する効果があります。アップデートを怠ると、脆弱性が放置されたままとなり、攻撃者に悪用されるリスクが高まります。アップデートは、自動更新の設定を有効にしておくことで、常に最新の状態に保つことができます。 定期的な脆弱性診断を実施し、潜在的なリスクを洗い出すことも重要です。脆弱性診断とは、専門のツールやサービスを利用して、システムに存在する脆弱性を検査するものです。脆弱性診断の結果に基づいて、適切な対策を講じることで、セキュリティレベルを向上させることができます。 脆弱性対策は、OSやソフトウェアだけでなく、Webアプリケーションやネットワーク機器など、システム全体に対して行う必要があります。また、脆弱性対策は、一度行えば終わりではなく、継続的に実施する必要があります。新たな脆弱性は日々発見されるため、常に最新の情報を収集し、適切な対策を講じることが重要です。
従業員へのセキュリティ教育
従業員のセキュリティ意識の向上は、ランサムウェア対策において非常に重要な要素です。従業員は、不審なメールやWebサイトへのアクセス、添付ファイルの開封などを避けるよう、セキュリティ教育を徹底する必要があります。攻撃者は、従業員を騙してマルウェアに感染させようとするため、従業員がセキュリティに関する知識を持つことが重要です。 具体的には、フィッシング詐欺の手口、不審なメールの見分け方、安全なパスワードの設定方法、SNSの利用における注意点など、実践的な内容を盛り込んだセキュリティ教育を実施します。セキュリティ教育は、一方的な講義形式ではなく、参加型の形式で行うことで、より効果を高めることができます。例えば、模擬的なフィッシングメールを送信し、従業員がどれだけ騙されるかをテストするなどの訓練を実施することも有効です。 定期的な訓練を実施し、セキュリティ意識の向上を図ることも重要です。訓練は、年1回だけでなく、四半期に1回など、定期的に実施することで、従業員のセキュリティ意識を維持することができます。訓練の結果に基づいて、セキュリティ教育の内容を見直し、改善することも重要です。 セキュリティ教育は、従業員だけでなく、経営者や管理職も対象とする必要があります。経営者や管理職がセキュリティ意識を高めることで、組織全体のセキュリティレベルを向上させることができます。セキュリティ教育は、組織全体で取り組むべき課題です。
まとめ:ランサムウェア対策は企業にとって最重要課題
ランサムウェア攻撃は、企業にとって事業継続を脅かす重大なリスクであり、その対策は最重要課題です。ランサムウェアは、企業の機密情報を暗号化し、業務を停止させるだけでなく、顧客情報や個人情報の漏洩を引き起こす可能性もあります。これにより、企業は金銭的な損失だけでなく、社会的信用を失い、ブランドイメージを損なうことになります。 最新の脅威動向を常に把握し、適切な対策を講じることで、被害を最小限に抑えることが可能です。多層防御の導入、脆弱性対策の徹底、従業員へのセキュリティ教育など、様々な対策を組み合わせることで、強固な防御体制を構築することができます。また、ランサムウェア攻撃を想定した事業継続計画(BCP)を策定し、定期的に訓練を実施することで、万が一の事態に備えることが重要です。 今こそ、セキュリティ体制の見直しを図り、強固な防御体制を構築しましょう。セキュリティ対策は、コストではなく、投資と考えるべきです。セキュリティ対策を怠ると、ランサムウェア攻撃によって被る損害は、セキュリティ対策にかかる費用を遥かに上回る可能性があります。企業は、セキュリティ対策を積極的に行い、事業継続と顧客の信頼を守る必要があります。 ランサムウェア対策は、企業規模に関わらず、全ての企業にとって重要な課題です。中小企業は大企業に比べてセキュリティ対策が手薄な場合が多く、攻撃者にとって格好の標的となります。中小企業も、ランサムウェア対策を徹底し、事業継続と顧客の信頼を守る必要があります。